Rauber Kopsch Band1. 05

C.細胞の分化,組織および器官の形成Differenzierung der Zellen, Gewebe-und Organbildung

 細胞の分化DifferenzierungすなわちSonderung(分別の意)は細胞分裂が持つ使命の1つであると思われる.細胞の分化はどれをもても,そのすべてが新個体の出発点である受精卵がひきつづいておこる分裂によって多数の細胞となって,これらの細胞が受精卵が受精卵から受けついだ材料に基づいておこっている.この分化の目的とするところは分業Arbeitsteilungである.分業は高等な生物には必要なことである.原性動植物はその体がわずか1個の細胞からなるので,この1個があらゆる役目をする.この場合でもある程度の分業があって,つまい核は原形質とは違った機能を持っている.なおまた原形質の内部にも分化がありうる.そこに筋原線維ができていることさえある.そして分化が必要である.そして文化の程度や形式がちがうのに従って,それぞれの生物が高低いろいろの段階に立っているわけである.

 分化の量とその方向を知ろうとするならば,われわれはここであらゆる種類の細胞とそのつくったものまで数え立てねばならないのであろう.しかしその目的のためには,雑多な種類の細胞を無理の内容に分類してつまりいわゆる簡単な組織einfaches Gewebeの群に分けて述べるのがよいと思う.

 組織とは,もともと同じ種類に属する細胞およびその細胞から生じたものの混合体である.

 動物においてはそういう組織として4つが区別される.

1. 上皮細胞 2. 結合および支持組織 3. 筋組織 4. 神経組織

 動物体の器官Organeはこの4つの組織のなかの1つあるいは2つ以上によってできている.器官という概念の形態学上および生理学上の定義は次のごとくである.

 器官は1種あるいは2種以上の組織より成り,決まったか形と機能をもつものである.

 その例として:1個の杯細胞は1つの組織に属するわずか1つの細胞からなる器官であり,爪は単一の組織に属する多数の細胞が集まってつくっている器官であり,腺はいろいろな種類の組織からできている器官である.

 いくつかの器官によって機能的にいっそう高いつながりをもった単位が構成される.これが装置Apparatあるいは()Systemである.例えば視覚装置Sehapparatは眼,眼筋,神経,血管およびその他の数多くの補助機関より成っている.

 そして最後に動物体の全体は多数の器官や装置からできているわけである.

 上述の関係からして,生物体の要素として細胞を述べたのに続いて,まず組織を列挙するには全くいろいろな方法がある.形態学的,生理学的,発生学的というそれぞれの立場がある.

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これらの立場のどれを厳守してみても,組織の分類としては全般に妥当とするものとはならない.そこで最も広くおこなわれている分類がすぐ上に紹介されたものであって,これは単一の原則によって決定したのではなく,発生学と生理学と形態学の諸性質をあわせたものがその土台になっているのである.

  Rauber, A., Die histologischen Systeme. Sitzber. Naturf. Ges. Leipzig, 10. Bd.,1883.-Haeckel, E., Ursprung und Entwicklung der tierische Gewebe. Jen. Z.,18. Bd.,1884.-Gaule, J., Oekus der Zellen; in: Beiträge z. Phys.,1887.-Peter, K., Die Gewebe im Unterricht. Anat. Anz., 68. Bd.,1930; Über anatomische und physiologische Eiheiten des Körpers. Anat. Anz., 71. Bd.,1931.-Patzelt, V., Zur Einteilung der Binde-und Stützgewebe. Acta anat. Vol. 9.1950.

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IV.組織学Histologia, Gewebelehre

 組織の分類にはいろいろな行き方があるが最も広くおこなわれいるのは次のものである.すなわち1. 上皮組織,2. 結合および支持組織,3. 筋組織,4. 神経組織に分けられるのである.

1.上皮組織Epithelgwebe

 定義:上皮組織は細胞のみから成っていて,その細胞は接合質によりあるいは突起によりあるいはその両者によってたがいに結合しており,1層あるいは多層をなして連続し,体の内外にある自由表面を被っている.

 これは細胞のみからなるので,あらゆる組織のなかで最も簡単なものであり,それゆえ細胞学のすぐあとにつづいて述べるのが好都合である.

 一般的性状:上皮細胞は原形質と核より成り,はっきりした境界を示す細胞である.細胞膜はしばしば欠けて,原形質の周縁部が固くなって細胞膜の代わりをしていることが多い.大多数の上皮細胞は軟らかくて,従って周囲の圧関係に容易に適合できるのである.しかしまた正にその配列のために上皮細胞は事情によっては,かなり強い圧をたがいに及ぼしあうことができるのであって,そのために特に胎生期には形態発生の重要な諸現象を引き起こし得るのである.なお成体においても多くの上皮細胞団はその構成要素すなわち個々の脂肪がたがいにおよばす圧のもとにある.細胞の形が容易にそのことをしめしているが,その他の点からもこれは証明できるのである.

 上皮組織をなす細胞の形が容易にそのことをしめしているが,その点からもこれは証明できるのである.

 上皮組織をなす細胞の形の豊富さFormenreichtumははなはだ著しいものであり,大きさの差異も高度である.細胞体の外面および内部に多種多様な構造がみられることがある.

 形状によって4種を分ける:扁平上皮Platten-Epithel(敷石上皮Pflaster-Epithelともいう),円柱上皮Zylinder-Epithel, 絨毛上皮Flimmer-Epithel, 移行上皮Übergangs-Epithelである.

 扁平上皮の細胞は平たくて薄く,小鱗状の板をなし,その境界線が多くは不規則である.ただ網膜の色素上皮(色素層Stratum pigmenti)の細胞は規則正しい六角形をしている(図39).他の細胞,たとえば口腔上皮の表面の細胞は不規則な輪郭をしめす(図40).そのほかの扁平上皮細胞でも五角形あるいは六角形をするものがあって,その境界が直接的ではあるが,境界線の長さがまちまちである(図46).

 円柱上皮細胞はいろいろの長さの稜柱の形をしている.それには(いわゆる)立法形の細胞kubische Zellen[「立法形」の細胞“kubische”Zellenという名前はよくない.さいころの形をした細胞を誰もみたことはあるまい.いわゆる立法形の細胞はその形から云えば五角形あるいは六角形の円柱状または稜柱状の細胞で丈の低いものである.(原著註)]からの眼の水晶体をなす長いひものような“水晶体線維”Linsenfasernまであらゆる形のものがある.楕円に近い形の核がその長軸を細胞の縦の方向に一致させて存在する.細胞の基底部は細い突起をだして,その下にある組織に鈎をかけたように付着している.

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[図39]ヒトの網膜の色素上皮の細胞

[図40]ヒトの口腔粘膜の扁平上皮細胞.×300.

[図41]カエルの腸から取り出された円柱上皮細胞.×750.

[図42]カエルの口蓋から取り出された杯細胞.×750.

[図4344]絨毛細胞.ヨーロッパの食用カタツムリHelixの腸上皮.(M. Heidenhain)

[図45]ドブシジミCyclasの絨毛上皮細胞.(W. Engelmann)

[図46]硬骨魚Perca fluviatilis(スズキ属)の小さい胚子の表皮を外方からみる.細胞の境をしめす.×200.

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 絨毛細胞Flimmer-oder Wimper-Zellenは円柱状または円錐状の細胞で,その自由面には多数の細かい毛が生えていて,その毛が細胞の生きているときは運動bewegen od. flimmernする.この絨毛は小皮縁Kutikularsaumという細胞体の縁の固い特別な1層付着している.そこで基底小体Basalkörperchenというものと結合している(図43~45).これからさらに細胞体の内部に細かい糸状物がのびて,これが集中しながら円錐状をなすので,絨毛根円錐Wimperwurzelkegelとよばれる.楕円に近い形の核が小皮縁からいくらか隔たったところにあり,その長軸は細胞じしんの縦軸と平行している.絨毛細胞の基底部は円錐状に細くなり,尖った突起をなしている.それが数本の細い糸状物に分かれていることがあって,これが上皮の下敷きをなすものに鈎で止めたように付着している.

 一定の細胞でみると,絨毛の運動はいろいろと違ったぐあいにおこなわれるが,毛のなびく方向はいつも変わらないのである.小さい細胞で,しかも弱い拡大でみたのでは,絨毛細胞の特性はなかなか分からない.多くの動物のものを比較してしらべると,はじめて絨毛細胞の複雑な構造がいっそう明瞭にある.絨毛細胞は動物界の全体を通じて大きい役目をしていて,時としてはこれが唯一の運動器具をなしているのである(図45).

 絨毛は単層の扁平上皮や高低のいろいろの円柱上皮にも存在することがある.後者は単層のばあいも銃創のばあいもある(図47).K. Peterの研究(Anat. Anz.,15. Bd.,1898,1899)によれば絨毛細胞の核をもっていない部分にも活発な運動がみられるのである.すなわち核は絨毛の動きには意味をもたない.またその毛だけを原形質の一部が付着しないようにとりだしても,やはりそれが運動するので,原形質もまたこの運動に直接の影響をもたない.絨毛運動をおこす中心はむしろ絨毛装置じしんのなかにあるのであって,基底小体のみがその責任を持つとおもわれる.この考え方と一致するのが精子Spermienの断片についての所見であって,中部Mittelstückとつづいている断片のみが運動をしめすのである.しかしなお基底小体と中心小体とが同じものであるかどうかが決定されていないし,また植物についての問題も容易に決まらない.(これについてはHeidenhain, Plasma und Zelle. Bd. I.,Jena,1907の287頁を参照のこと.)-v. Renyi (Zeitschr. Anat. Entwgesch.,81. Bd.,1926)は絨毛細胞の運動の中心に関する問題を新しい方法(生体染色,微小操作)を利用して研究した結果,“いままでの記載的および実験的な形態学において,絨毛細胞の運動の中心をいくらかでも確実さをもって決定することは,成功していない”という悲観的な結論に達したのである.

 円柱上皮細胞や絨毛上皮細胞のそれぞれの集まりの中に,機能の上からは粘液細胞Schleimzellenとよばれ,形状の受けからは杯細胞Becherzellenとよばれる一種特別な細胞がある.その形は分泌物を含む量によって変わる.分泌物をほとんど有しないときは円柱細胞の観を円柱細胞の観を呈しているが,粘液が増していくると樽のような形になる.それも初めはまだ細長いが,だんだんと丸みをおびて膨れてくる.そうすると核は原形質の残りといっしょに細胞の基底部に移り,核の形が変わる.細胞の自由端のところが開いて粘液が密雲か綿雪のように膨れてその口から出て行く(図42, 47, 56, 57).

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 腸の杯細胞は円柱細胞が変わってこれになるのであって,後者の原形質内に粘液顆粒(図48)ができて前者が生ずる.粘液顆粒は始めはごく微細であるが,そのときすでに粘液反応を呈する.すなわち塩基性の色素に強く染まるのである.それより進めば顆粒が増大し,またたがいに癒合する.もっとも癒合は概して顆粒が細胞の外にでたうえで始めておこるのである.

 他方また,ある腺の粘液細胞では粘液の前進をなす顆粒がみられることもある.その顆粒は最初のうちは粘液染色で染まらないので,あとになって粘液顆粒にかわる.Heidenhaln, Plasma und Zelle, Bd. I.-Osawa, G., Über Darmepithelien. Mitt. med. Fakultät Tokio. 9. Bd.,1911.

[図47]ヒトの気管の重層絨毛上皮.細胞内の内網装置をKopsch-Kolatschevの方法であらわしたもの.×1000. (Kopsch, Z. mikr.-anat. Forsch., 5. Bd.,1926)

 移行上皮細胞は扁平上皮細胞とはなはだ近い関係にあるもので,尿の通路のみに存在する.すなわち腎盂,尿管,臍胱にある.移行上皮の最も表層にある細胞は,この上皮が被っている気管がひっぱられているときは,幅が広くて平らになり,その気管が縮むときは熱くなる.この細胞は自由面にそって小皮性の1層をもち,また細胞体の下面にはいくつかのへこみがあって,これにそれより深くにある西洋梨型あるいは紡錘状の細胞の頭が入り込んでいる(図49, 50).

 多数の上皮細胞がたがいに結合して1つの上皮をなすこと,すなわち一と続きで隙間のない1層をなすことは接合質Kittsubstanz(細胞間物質Interzellularsubstanz),あるいは細胞と細胞とのあいだを通ずる細胞間橋Verbindungsbrucken (Interzellularbrucken),もしくはこの両者が同時に存在することによって実現している.

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 接合質の特別な一種であるところの閉鎖堤Schlußleistenは多数の上皮(それも諸所の粘膜の円柱上皮や移行上皮が主である)にみられるもので,これは表皮細胞の表面にむかった端のところを結合していて,表の方からみると閉鎖堤網Schlußleistennetzという網状の像をしめすのである.

 細胞間橋は一つの細胞から他の細胞につづく原形質の突起と考える人があり,あるいは細胞膜の突起とする人もあり,またその両方だという人もある.その決定はむつかしい.もしもそれが原形質の突起だとすると,そしてこの考えは動物細胞は普通に細胞膜を欠くので確実性を有するのであるが,全身にわたる大きい細胞団の原形質が無数の突起でたがいにつづいているという重大なことになる.すでに胎児おいてこういう突起の存在が証せられる.すなわち早くから現われるもので,細胞相互のあいだを固く着けておくためのものである.他方ではまた細胞間隙Interzellularlückenという管が残っていて,そこを細胞間液interzellulare Flüssigkeit(上皮リンパEpithellymphe)という液が流動していて,これが上皮の栄養にはなはだ大きい意味をもつのである.遊走細胞もこの管を通って,上皮の表面に達する.

[図48]サンショウウォの腸上皮細胞における粘液形成.Aは小さい粘液顆粒をもつ細胞.Bは大きい粘液顆粒をもつ細胞.(Heidenhain, Plasma und Zelle. Bd. Iによる.)

[図49]家兎の臍胱より得た移行上皮細胞.×300. 左上:表層の幅の広い平らな細胞で2つの核を有し,下面に鋭く突出した明瞭な縁とへこみをもっている.下:それより深い層に属する2つの西洋梨型の細胞.右上:西洋梨型の細胞が1個,表層の細胞がもつへこみのかなにはまっている.(Kleinに基づいてSchäferが描いたものよりとった.)

[図50]尿管の移行上皮 ヒトの尿管粘膜の横断図.×500.

[図51]閉鎖堤網の模式図(Stöhr sen, による.)

[図52]細胞間橋 ヒトの表皮の切片.×1000. 細胞間隙が広くなっている.そのために細胞間橋のランヴィエ小節Ranviersche Knötchenが存在しない.*は核小体.

 上皮層形成:すでに述べたごとく上皮細胞が集まって,一とづづきの被い,すなわち上皮を形成している.重なり合っている細胞層の数によって

 a)単層上皮einfaches (einschichtiges) Epithel

 b)重層上皮geschichtetes (mehrschichtiges) Epithel

が区別される.

 理論的に云えば,この二つの型は上述の4種の上皮細胞のいずれにも存在しうるはずであるが,しかし単層の移行上皮というものはない.だからわれわれは次の7種の上皮を見ることができる.

1. 単層扁平上皮einfaches(einshichtiges)PlatternEpithel:その例としては網膜の色素上皮,肺胞の呼吸上皮,精巣網の上皮,胸膜や腹膜の上皮(図39, 53).

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2. 重層扁平上皮geschichtetes (mehrschichtiges) Plattern-Epithel:これに属するのはまず表皮,なお口腔,食道,声帯ヒダの自由縁,腟,角膜などの上皮である(図54, 55).

 ここで注意するべきは,最も表面の細胞層のみが扁平な細胞からできていることである.最下の細胞層をなすものは円柱状であり,それに次いで多角形の細胞が集まっている.これは隣接する細胞から圧をうけて多角形となっている.表面の近くにある細胞は扁平であるが,最も表層にあるものだけが薄くて小鱗状である.細胞の形に応じて核の形および位置も変化する.核は下部の円柱細胞層では楕円に近い形であり,中くらいの層ではほぼ球形を呈し,上部の層では平たくなっている.

3. 単層円柱上皮einfaches Zylinder-Epithel:腸間では噴門から肛門までの上皮がそれであり,数多くの腺の導管や腺体(甲状腺,腎臓,前立腺,精嚢腺),脊髄の中心管,正看の上皮がこれがこれに属する(図56).

4. 重層円柱上皮geschichtetes Zylinder-Epithel:眼瞼結膜,大きい腺の導管の主幹,男の尿道,精巣上体管にこの種の上皮がある.

5. 単層絨毛上皮einfaches Flimmer-Epithel:気管支の細い枝,卵管,子宮,副鼻腔,精巣上体頭の管がこの種の上皮をもっている.

6. 重層絨毛上皮geschichtetes Flimmer-Epithel:呼吸道では鼻腔からはじまって気管支の細い枝まで,ただし声帯ヒダの自由縁をのぞく.そのほかに血管や鼻涙管がこの種の上皮で被われている(図57).

7. 重層移行上皮geschichtetes Übergangs-Epithel:これは腎盂,尿管,臍胱にある(図50).

 上皮細胞の表面および内部にみられる分化äußereund innerre Differenzierungenははなはだしく多様である.それを全部述べることはくたびれ損の傾きがあるから,その大体を簡単に述べて,違った形のものが如何に豊富であるかを,ある程度わからせるとしよう.

 上皮細胞の表面の分化のなかで,われわれはすでに細胞間橋と絨毛については述べたものである.動く付属物すなわち運動毛Kinocilienのほかに時として細胞の自由面に動かない毛すなわち不動毛Stereocilienがあるとされている.付属物のいま一つ別の型のものは精巣上体管などの細胞の方面にある細い毛の束であって,これは分泌物を導くはたらきをもっている(第II巻を参照のこと).

 中心鞭毛装置Zentralgeißelapparatは精細な多くは短い1本の毛が細胞の自由面から外にむかって突出していて,鞭毛Geißelあるいは外糸Außenfadenとよばれ,その細胞の方面のすぐ下に多くは双心子Diplosomaの形で中心小体があり,なおこの中心小体から細胞の内部にむかって細い糸が集まって束をなしてすすんでいる.これらを合わせて中心鞭毛装置という.この鞭毛が動くかどうかはいままでまだ分かっていないが,精子細胞から最初に軸糸ができはじめる時と形態学的に似てはいる.しかしおそらくこの鞭毛は感覚器であろう.あるいは退化した構造物であろうか.というのはヤツメウナギの原腎の細胞にはかなり丈夫な鞭毛を1本ずつもつものがみられるのある.

[図53]ヒトの大網における腹膜上皮 細胞の境界を銀によってあらわしてある.

[図54]重層扁平上皮 ヒトの角膜上皮の切片.×500

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 特別な種類の突起が網膜の色素上皮の細胞にみられる.それは原形質の突起であって,色素顆粒をもっていて,この顆粒は細胞に光の当たるときとあたらないときで位置を変えるのである(図59).おのおのの細胞がそういう突起をたくさんにもっている.

 また腸上皮細胞の自由面は独特な形態をしめしている.そこにあるStäbchensaum(小棒縁)[いわゆる小皮縁Kutikularsaumと同じものを指す.(小川鼎三)]あるいはPorensaum(小孔縁)の微細構造を正確につかむことは困難である.この縁がたくさんの縦の方向に平行したすじをもっていることは容易に分かる.しかしおそらくこれは細胞の原形質が指状の突起をたくさんに出して,それをとりまいて特別な小皮性の部分があるのであろう(図56).これについてはR. HeidenhainとOsawaの研究がある.

 上皮細胞の外面の分化でいま一つ別の形のものはいわゆる刷子縁Bürstenbesatzである.Lieberkühnの腸腺,胃底腺,腎臓の迂曲した尿細管では分泌がおこなわえているあいだ,その明瞭さに多少の差はあるが細かい動かない毛あるいは小棒の形をしたものが細胞の自由単に衣服の辺飾りのように着ている.それが分泌のとき以外は消えてなくなるのである(Nussbaum, Arch. mikr. Anat., 27. Bd.,1886).

 ここで感覚器の上衣細胞にみられるいろいろと特色のある分化について述べるべきであるが,それは感覚器の項にゆずることとする.

 上皮細胞の内部の分化がまた実に多様である.その1つとして角膜および水晶体の上皮細胞はその原形質が全く明るくて,透明な性質をもっていて,光線がそこを通過するのに最もよく適している.そのちょうど反対が色素上皮細胞であって,その原形質は多数の小さい,不透明な小体を含んでいて光の通過をさまたげるのである.

 いま一つやはり明るくて透明な,しかもはなはだ薄くひきのばされて核を失った上皮性のものが肺の呼吸上皮にある.ここにはその他に顆粒にとみ,核をもった小さい上皮細胞もある.

 内部の分化として興味のある1つの型は上皮細胞の石灰化Verkalkungであって,これは正常な現象として,歯のエナメル質形成に起きる.長い棒の形をしたエナメル小柱のおのおのがそれぞれ1個の上皮細胞の石灰化した部分なのである.この石灰化上皮細胞Kalk-oder Titano-Epithelzellenに対して空気化上皮細胞Aëro-Epithelzellenというのがある.後者では空気が上皮細胞間の迷路中に侵入して,そおで栄養液を押しのけている.それは白髪の若干の場合,なお爪のしくみ得る場所がこの状態である.空気は細胞間隙から細胞じしんの中まで入り込んでいることがある.

 全身にわたって大きい広がりをもっているのが角化Verhornungの現象である.角化は例えば毛の表面の毛小皮におけるごとく細胞の全体に完全におこっていることと,表皮の爪の角質層におけるごとく不完全なものとがある.角化の現象は典型的な場合には次のごとく進行する.ある細胞層にケラチンの前進をなすいわゆるケラトヒアリンKeatohyalinが粒状にあらわれて,これがそのとなりの層では液化しており,次いでこの液化したケラトヒアリンがさらにその向うにある角質化上皮細胞Kerato-Epithelzellenあるいは角質小鱗Hornschüppchenのケラチン膜の形成を引き起こすのである.

[図55]角膜の上皮細胞をばらばらにしたもの.×700.

[図56]円柱上皮(ヒトの回腸の切片)×1000.

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 上皮細胞の内部の分化としていま一つの別の種類は脂肪化上皮細胞Fett-oder Pio-Epithelzellenであって,その例は脂腺や乳腺の上皮にみられる.しかしこれらはわれわれが種々の上皮性の腺でみるところの細胞内部の変化についての万掌鏡ともいうべきもののほんのわずかな一部にすぎないのであって,それらの上皮性の腺については後に諸器官の項で述べることとする.

 ここでは脊索Chorda dorsalisの組織について一言しておこう脊索は密に相接しあった細胞の集まりより成っていて,この細胞はやや進んだ段階では細胞膜をもち,細胞間橋(Studnicka)によってたがいに結合しているが,細胞間物質はごく少ししかなくて,そこに初めは膠原CollagenもコンドリンChondrinも含まれていない.しかしそれよりあとになると脊索組織の内部でそこそこに細胞壁が厚くなり,またその化学的性質がかわって,いわゆる脊索軟骨Chordaknorpelができる.それゆえ脊索の組織は学者によって結合組織に数えられ,あるいは上皮組織に数えられたりする(44頁を参照のこと).Schafferはそれが軟骨組織や結合組織に属するものではないと考えた.彼によればそれは支持物質の特殊な一型であって,宗族発生的に“軟骨組織の前進とみなされるものであり,軟骨様支持組織chordoides Stützgewebe”と呼ぶことができるのである(Anat. Anz., 37. Bd.,1910).-Studnicka, Z. Zellforsch.,13. Bd.,1931をも参照のこと.脊索の増殖した残物が成人にもなお存在している.

上皮細胞と神経線維

 近年まで一般に信ぜられた学説は,神経の非常に細かい終末部が上皮細胞の間にある,すなわち上皮細胞間の液の流れている迷路部にあるというのであった.もっとも,それが細胞内にあると主張する声もなかったわけではない.近年のすぐれた研究方法によって初めて,ごく細かい神経線維が上皮細胞の内部に侵入して,その細胞体の中で,しばしば核に近いところで細かい終末網をもって終わることが確実に証明できるようになった.Boekeは“角膜のほとんどすべての細胞が神経をうける”と述べている.彼は扁平上皮を構成する普通の細胞および感覚細胞における細胞内神経終末を特に記載している.(図60~62).

 Eggeling, H., Anat. Anz., 20. Bd.,1901.-Heidenhain, Sitzber. phys. med. Ges. Würzurg,1899.-Studnicka, Sitzber. Böhm. Ges. Wiss. Prag,1899.-Zimmermann, Arch. mikr. Anat., 52. Bd.,1898.

[図57]多列絨毛上皮mehrzeiliges Flimmer epithel. ヒトの鼻腔の呼吸部Regio respiratoria. [多列上皮mehrzeilings Epithelとは本質的には単層であるが,上皮細胞の丈が高低いろいろで,一部のみ表面に達する.従って核の並び方をみると多層のごとくおもわれるものをいう.(小川鼎三)]

[図58]中心鞭毛装置 ヒトの精巣網の上皮細胞.(Alverdes, Z. mikr.-anat. Forsch.11. Bd.,1927より.)

[図59]2個の色素上皮細胞 ヒトの網膜,細胞の側面からみる.細胞の下部は色素を欠き,上方に向かって長い絨毛状の突起ができている.核は示されていない.(M. Schultzeによる.)

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[図60~62]上皮細胞における細胞内神経終末 (Boeke, Zeitschr. mikr.-anat. Forsch. 2. Bd.,1925より.)図60. チゴハヤブサBaumfalkenの角膜上皮の細胞.図61. ハリネズミの輪郭乳頭の扁平上皮細胞図62. ハリネズミの味蕾の内部細胞(感覚細胞)

2.結合および支持組織Bindesubstanzgewebe

 定義:結合および支持組織は細胞間物質(あるいいは原線維間物質),細胞および線維より成っている.

 この組織は中胚葉に由来するもので,動物体の支持器官をなし,血液およびリンパをつくる.

 このグループに属する組織はいろいろあって,互いのあいだで重要な多くの差異を示すが,その起原が一致すること,他のものに変形する性質があること,比較解剖学的に特徴があること,およびまた種としてその機能の点で,完全な1群にまとまるのである.これらの組織の大部分をまとめて特別な1群となして,これに結合物質Bindesubstanzという名前をつけたのはReichert 1845が初めてである.

 上に述べた3つの成分はこの組織群に属するいずれの種類の必ず存在するが,その中で最も本質的なものは細胞であって,これから他の2成分ができるのである.つまり細胞が細胞間物質および原線維をつくる.-早い時期の胎児では始めに結合組織Bindegewebあるいは間葉(間充組織ともいう)Mesenchymとして細胞が集まって網状を呈していく(図63),この細胞が突起をだしてたがいにつづいている.間葉の細胞は結合および支持組織のいろいろの種類ができてくる源なのである.

 細胞間物質Interzellularsubstanzは細胞や線維の間にある無構造ののもので,従ってその名前のごとく細胞間のみでなく,また原線維間物質Interfibrillarsubstanzなのである.

 Schaffer(Anat. Anz.,19. Bd.,1901)はこの無構造の中間物質を接合質Kittsubstanzとよんだ.v. Korff: Merkkei. u. Bonnet, Ergebnisse,17. Bd.,1909をも参照のこと.R. Virchow, Kollikerやその他の学者によればこの物質は結合組織細胞から分泌されて生ずる.この“分泌説”Sekretionslehreに対して比較的新しく別の学説が登場している.それは細胞間物質が細胞の外形質Exoplasmaの変形によって生ずるという“外形質説”Exoplasmalehreである.それにあとで細胞からの分泌物が加わるというのである.Heidenhain, Plasma und Zelle. Jena,1907-1911.-Stundicka, Sitzber. Bohm. Ges. Wiss. Prag,1907, Anat. Znz.1907, Anat. Anz., 38. Bd.,1911. Z. Zellforsch., 4. Bd.,1926.

 基質Grundsubstanzという名称は原線維と原線維間物質ないし細胞間物質をみな含めたものに用いられる.結合組織の線維の由来については後述39頁を参照のこと.

[図63]胎児の結合組織 ×400(Gegenraurによる.)

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 結合および支持組織の形状はあまりにも多岐にわたっているので,その分類ということが特に必要である.Waldeyerは次のように分類して,学生にこのむつかしい部分をできるだけ楽に会得させようとした.彼がいうごとく:

 この組織は細胞間物質と細胞と線維とから成っている.その第1群では線維が他の2成分よりもずっとめだっている.それに属するのは

1. 普通の疎性結合組織gewöhnliches lockeres Bindegewebe.

 内筋周膜Perimysium internum, 神経内膜Endoneurium, 腺の間やその内部,皮下組織などがそえである.

2. 定形(あるいは強靱)結合組織geformtes (straffes) Bindegewebe.

 腱,筋膜,腱膜,眼球外膜Tunica exerna oculi, 薄膜Albugineaなどがこれに属する.

3. 弾性組織elastiches Gewebe.

平滑筋線維の腱,椎弓間靱帯Ligg. inerarcualia,肋間靱帯Ligg. intercotalis,血管壁の中などである.

 第II群は細胞間物質が他の2成分よりも著しくみえるもので,これに属するのは

4. 軟骨組織Knorpel-Gewebe.

 a)硝子軟骨

 肋軟骨あるいは関節軟骨,また喉頭,器官,鼻そのほか数カ所にある.

  b)線維軟骨

 椎間円板,関節半月と関節円板,大腿骨頭靱帯,関節唇,なお所により腱や腱鞘のなかにある.

  c)弾性軟骨(あるいは網状軟骨).

 耳,喉頭蓋,そのほか喉頭の披裂軟骨の一部,小角軟骨,楔状軟骨がこれである.

5. 骨組織Knochengewebe.

 骨格をなしている骨やいくつかの感覚器にある.また筋系統とともに近い関係にある種子骨や腱の骨化もこれに属し,歯ではセメント質がこれである.なお喉頭軟骨および肋軟骨が年齢が進むにつれ骨化することもここで指摘しておく.

6. ゾウゲ質組織Zahnbeingewebe.

 これは歯にだけある.

 第III群は細胞そのものが最もめだってみえる場合である.

7. 脂肪組織Fettgewebe.

 体じゅうどこにもあるが,とくに皮下組織,腸間膜,腎臓の脂肪嚢でよく発達している.

8. リンパ性組織(あるいは細網組織)lymphoides (cytogenes, adenoides, retikuläres) Gewebe. リンパ節,内分泌腺,骨髄,胸腺などにある.

9. 色素組織pigmentiertes Gewebe.

 眼球中膜tunica media oculiがその例.

10. 内皮組織Endothelgewebe.

 血管やリンパ管を被い,またリンパ腔Lymphräumeを被っている.

11. 胎児性結合疎域embryonales Bindegewebe.

 胚子embryoや胎児Fetusの体にある.

1. 普通の疎性組織結合は細胞間物質(これは同時に原線維間物質でもあるが),膠原線維,弾性線維,格子線維,固定結合組織細胞,遊走細胞,顆粒をもつ細胞(これにはEhrlichの肥満細胞Mastzellen, Waldeyerの形質細胞Plasmazellen, Ranviewの断裂細胞Clasmatocytenがある)からできている.それになお少数の脂肪細胞や色素顆粒をもつ結合組織細胞が加わっている(図64).

 線維は一見したところ不規則に入り乱れており,いろいろな方向に走ってたがいに交わっている.外観により,また物理的および化学的性質の違いから,a)膠原線維collagene (leimgebende) Fasern, b)格子線維Gitterfasern, c)弾性線維elastische Fasernを区別する.

 膠原原線維collagene Bindegewebsfirillenは非常に細いもので,その長さはしばしばはなはだ大であり,色は淡白で,均質にみえて,条らしい模様を示さない(近年,電子顕微鏡の利用によって膠原原線維に横縞のあることが確証された.(小川鼎三)).これはコラゲンCollagenという物質よりなっていて,煮ると膠Leim (Glutin)ができる.この線維が孤立していることもあるが,またいろいろな太さの束に合している.少量の原線維間物質がその間をくつつけ合わせている.

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こういう結合組織束Bindegewebsbündelは繊細な縦の方向の筋を示し,かなりの丈夫さをもっている.そして曲がりやすいが,弾性は少ない.

 結合組織束は同じ太さのままで長くつづいて軽い波状をなして走ることもあり,また同じ種類の他の線維束と合して,いっそう太い二次束や三次束をなすこともある.

 試薬に対する関係:石灰水Kalkwasser,重土水Barytwasser,過マンガン酸カリ,ピクリン酸などを用いることによって線維束はその個々の原線維を分けられる.これらの化学物質が原線維間物質を溶かすからである.薄い酸たとえば酢酸を加えると,線維束は膨化して,膠のように透明になる.膠原線維は胃酸に溶けるが,トリプシンには溶けない,そしてすでに述べたように煮ると膠ができる.年齢による変化:若い人の膠原線維は上に述べたいろいろのものを作用させたときにいっそう弱い抵抗を示す.年齢が増すとともにますます固くなり,抵抗が強くなる.

[図64]疎性結合組織 材料はネコ,中性赤による超生体染色supravitale Färbung mit Neutralrot. (Maximow)

 格子線維は多くははなはだ細くて,たがいにつづいて格子状をなし,また膠原原線維の端とつづいている.薄い酸に対しては膠原線維よりも抵抗がいっそう強い.トリプシンによって消化されない.しかし煮ても膠を生じない.

 格子線維は腺の終末部のまわりや毛細管の内皮管のまわりをとりまく基礎膜を形成している.銀液で処理するとこの線維が特別によく現われるので,そのために銀好性線維argrohile Fasernとよばれる.細網組織や脾臓の静脈洞をとりまく輪状線維は格子線維に属するのである.電子顕微鏡の示すところによると,この格子線維はいくつかのさらに細い原線維の集まりである(v. HerrathとDettmer, Z. wiss. Mikr. 60. Bd.,1951).

 弾性線維elastische Fasernは多くは円い切り口で,時としてはまた帯のようである.これははなはだ弾性にとんでいる.その太さは1µの何分の1から9µまでいろいろと異なる.たがいに連なって網をなし,また線維の輪郭がはっきりとして暗くみえ,光を屈折する力が大きいので強い輝きをもっている.この線維が(標本のなかで)千切れると,その強い弾性のために切れ端のところが縮んで,特徴のあるうねった像をあらわす(図64).

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 試薬に対する関係: 弾性線維は酸およびアルカリに対してはなはだ抵抗が強い.しかしトリプシンによって徐々に全く溶けてしまう.水の中では60時間煮ても溶けない.圧を加えて30時間130°で煮ると弾性組織は特別な化学性状をもつ褐色の塊に変わる.

 固定結合組織細胞fixe Bindegewebszellenはまた線維細胞fibrocytenあるいは線維芽細胞Fibroblastenともよばえ,その細胞体は扁平で,平らにひきのばされて尖った輪郭を示し,平板状あるいは翼状の突起をもってその突起が他の細胞の突起とつづいている.原形質は網状の配置を示して,小さい顆粒がわずかに含まれている.突起の縁のところは極端に細かくて薄いので,切片標本ではこの細胞の輪郭がほとんど決定できない.中心小体ももちろん存在している.内網装置はPfuhl (Z. Anato. Entw.,99. Bd. )によりはなはだ明瞭に染めだされた.

 核はかなり大きくて,扁平で楕円に近い形をなし,数多くの細かい淡色のクロマチン顆粒と明瞭な核膜と1個あるいは数個の核小体をもっている.

 これは結合組織の線維をつくるもので,高度に分化した細胞である.Maximowはその増殖によって同じ種類の細胞のみができるといい,Verattiは条件によっては之から形質細胞が生ずるという.またv. Möllendorff (Münch. med. Wochenschr.,1926, Z. Zellforsch. .,12. Bd.,1931)によると断裂細胞そのほかの細胞も之からできるという.色素を多量にあたえたときに限って,固定結合組織細胞はその色素の一部を自らの体内にとりこむが,それも細かい顆粒の形でみられるのみである.

 遊走細胞Wandcrellen (Haemocyten) (図65)は形状および外観がいろいろである.原形質をわずかしかもたない小さい球形の細胞で,その円い核が血液のリンパ球の核のように濃密な作りを示しているものがあるかとおもえば,それより図体が大きくて,細胞体が良く発達しているのがある.おそらく上述の小さい遊走細胞がさらに発達してこれになったとおもわれるのである.遊走細胞はアメーバ様の運動を示し,その核は球形,馬蹄形あるいは分葉形である.

 顆粒をもつ細胞granulierte Zellenとしては次の3型がある:

1.肥満細胞Mastzellen (ehrlich), 2. 形質細胞Plasmazellen (Waldeyer),3. 断悦細胞Clasmatocyten (Ranview).一部の学者によるとこれらの細胞は白血球に由来するという.そしてこれらに共通なことは細胞体が細大の差こそあるがいずれも顆粒をかなり沢山にもっていることである.

 肥満細胞(図64)はずんぐりした大きい細胞である.水に溶ける粗大な小球状の顆粒が細胞体をぎっしり充たしていて,そのために核がしばしば全くかくされている.この顆粒は塩基性アニリン色素に染まる(metachromatisch, 染色に使う色素と違った色調で染まる).

 この種の細胞は血管のそばや上皮層の近く,ならびに若い疎性結合組織のなかにみられる.動物が飢えた状態になっても,肥満細胞は存在しており,その特色を保っている.だから動物の全身的な栄養状態や局所的に高まった栄養状態とこの細胞は無関係である.それゆえ,肥満細胞という名前はむしろ細胞じしんが顆粒に富んでふくれていることにあてはまる.この細胞はヘパリンおよび若干の段階のヴイタミンを有している(Hirt, Verh. anat. Ges.1938).

 形質細胞の形はいろいろで,円いこと,卵円形のこと,紡錘状のこともあり,数個の突起をもつこともある.原形質は塩基性アニリン色素で暗く染まるが,明瞭な顆粒構造を示さない.この細胞は主として血管の周囲に存在する.核は球形で,少数の大きいクロマチン小塊が核膜の内面に付着している(車輪核Radkern) (図65).

 断裂細胞組織球Histiocyten (Goldmann 1909),または大食細胞Makrophagen (Metschnikoff 1892),または休止遊走細胞ruhende Wanderzellen oder Polyblasten (Maximow 1906),または断裂分泌細胞rhagiocrine Zellen (Renaut 1907),または外膜細胞Adventitiazellen (Marchand 1898)とよばれるものと同一の細胞である.その細胞体は大きくて,多くの場合紡錘状を呈し,細胞体が広がっていて,顆粒に富み,また多数の液胞によって貫かれている.アメーバ様の運動をする.断裂脂肪という名前のおこりはその細胞体が部分的に切れて,その離れた部分は直ちにこわれてしまうが,核をもつ細胞体の主部は再生するという特性にある.Ranvierはこれを一種の分泌現象とみなしたものである(図64, 65)

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 この細胞は色素を豊富に,しかも粗大な塊の形で貯える.また明らかに“正常の結合組織内で物質代謝についての重大な役目を果たしている”(Pfuhl 1933).しかし寿命の短い細胞であって,これに反して線維細胞は寿命が長い.(Pfuhl, Z. mikr.-anat. Forsch., 31. Bd.,1932).

 疎性結合組織にはなお脂肪細胞や色素をもつ結合組織細胞もまた,存在しうるのである.これらの細胞の構造についてはあとに詳述する.

 組織発生:組織内白血球Gewebsleukocyten, 休止遊走細胞,組織球,大食細胞,外膜細胞はv. Möllendorff (Z. Zellforsch., 3. Bd.,1926)によれば線維細胞が突起をもってたがいに連なっている結合状態からその一部が離れてでて,その形態と機能を変じたものである(しかしこの点についてはMaximow, Leopoldina, 4. Bd.,1929およびBrodersen, Z. mikr.-anat. Forsch.,14. Bd.,1928を比較参照すること).

 膠原線維は固定結合組織細胞からできる.それゆえこの細胞が線維芽細胞Inoblasten oder fibrobblastenと呼ばれるのである.線維がどこでできるかについて2説が対立している.Flemming, Spuler, Retterer, Maximowによるとそれは線維芽細胞の内部に生ずる.他方,Kölliker, とMerkelによればそれは細胞と細胞の間で,はじめ均質みえる細胞間物質の中にできてくるのである.前の説では,細かい線維芽細胞体の周辺部の明るくて均質にみえるそう,すなわち外形質Exoplasmaの内部に現われる.それも細胞の並んでいる列の全体をこえて一と続きのものが同時にできる.次いでこの線維が生みの親である細胞から分離して,そしておそらくは細胞から独立してなお成長することができるのである.もしもある定まった場所に線維芽細胞の大きい集団があって,その各々の細胞が高度の活動をなすならば,そこから線維に富んだ力強い結合物質の器官が生ずる.その反対に,少数の線維芽細胞が散在していて,それがわずかな活動をするときは,繊細な膜あるいは薄い繊弱な止め紐しかできないのである.

 原線維の形成が終わったあとでは,細胞はできあがった結合組織性の器官の形状や組成に応じて,いろいろと変わった形をとらなければならないのであって,その形は周囲から細胞が押しつけられて生ずるのである.

 かくしてわれわれは紡錘状や星形をしたもの,そして網状にたがいに合している細胞をみるし,また上皮のように細胞が沢山ならんで(上皮様細胞epitheloide Zellen),原線維の一次束の中に切りこんでいるのもみられる.この上皮様細胞が数個の束に同時に接するばあいには,非常に奇妙な形をとって,翼細胞Flügelzellenや水車の水掻き細胞Schaufelradzellenとよばれることがある.そのときには原形質は核の近くにだけ残っていて,細胞体の端っこのところは明るい板になっている.

 上皮様細胞で囲まれている1本の原線維束に酢酸を加えると,その原線維の塊が著しく膨れるが,その膨れに対して上皮様細胞の包みが多少とも妨害をおこすのである.つまり所々で外に向かって膨れるが,その間のところがくびれている.その絞れは細胞の比較的つよい突起のある場所に当たっている(図67).そしてこの突起がいわゆる巻酪線維umspinnende Fasern (umsponnene Fasernというのがいっそう良い)である.Watzka (Z. mikr.-anat. Forsch., 40. Bd.,1936)によるところの絞れは膠原線維束のまわりを輪状にとりまいている格子線維によるのであって,薄い酸に対して格子線維が膠原線維よりもいっそう抵抗が強いので上述のことがおこるのである.

[図65]形質細胞 家兎の網Omentumより.(Maximow)

[図66]結合組織の薄い膜 皮下細胞に富む組織から,(A. KeyおよびG. Retziusによる.)約×750. a, a原線維の集まった帯,b, bこの膜の細胞層がたがいに合する場所,c, cその細胞の核,dこの膜の細胞核が原線維の帯の上にのっている.

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2.定形結合組織すなわち強靱結合組織ではそのほとんど全部を占めて膠原原線維と特別な形の細胞,ならびに少量の細胞間ないし原線維間物質がある.原線維はたがいに平行して走り,わずかな量の原線維間物質のよってたがいに連ねられて,太い線維束をなしている.腱ではこの線維束がたがいに平行に配置され,筋膜や角膜ではそのかなり大きい集まりがたがいに交叉しており,真皮や眼の強膜では比較的小さい集まりがいろいろの方向に交錯している.細胞としてはほとんど結合固定結合組織細胞のみであるが,,これがそれぞれの器官に特有な,そして特別な形をしており,且つ規則正しい配置をしている(例えば腱の翼細胞,角膜の角膜小体).翼細胞Flügelzellen(Ranvier)は稜柱状の細胞であって,平たくひろがった3つあるいはそれ以上の数の突起をもっている.この突起はいろいろと異なる角度で細胞体から出ていて,隣接する線維束を囲む形をしている(図69).この種の細胞を側面からみると,視野の面にある翼状突起は薄い板としてみえるが,観察者の方に向かってのびているか,あるいはその反対の方向に伸びている突起は細胞の上を越えて通るくらい線としてみえるのである(図70).核は楕円に近い形である.角膜の細胞(角膜小体)は1つの面上にひろがった扁平な細胞である.

3.弾性組織は大部分が弾性線維ないし弾性網あるいは弾性板と少量の細胞間ないし原線維間物質,膠原線維および細胞とからなる.この組織は特別な弾性器官をつくっている.このような器官では弾性線維が結合してやはり網の形をしているが,その線維が疎性結合組織などの含む弾性線維よりはるかに太い.その例として項中隔の横断を示しておこう(図71).ここでは器官の軸にそって縦走する太い弾性線維の群が膠原線維と細胞間物質と細胞の3要素からなる疎性結合組織によってまとめられいる.

 血管の平滑筋線維のあいだおよびいわゆる弾性軟骨では弾性組織が上述のものとは違った形で存在する.これらでは密な弾性網が融合することによって広い板や膜ができている.これはHenleいらい有窓膜gefenstere Häuteと呼ばれている(図72).

[図67]巻酪線維umsponnene Faserヒトのクモ膜,酢酸をもって処理したもの.(Toldt)

[図68]腱の膠原原線維Bindegewebsfibrillen (Rollet)約×500. a, a紡錘状の細胞とみえるもの.

[図69]腱細胞の立体図plastische Darstellung. (Tourneux)

[図70]腱細胞の列 ネズミの尾Rattenschwanzより.

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4.軟骨組織の特色は基質が方に存在して,その基質は透明であり,一見均質のごとくみえ,これを煮るとコンドリンChondrinが生ずることである.軟骨の基質は原線維間物質,膠原線維ないし弾性線維からなり,なお特徴ある軟骨細胞をその中にもっている.

 いま述べた成分のいずれが他に優って存在しているかによって3つの主な群を分ける.

 a)硝子軟骨hyaliner Knorpel,  b)線維軟骨Faserknorpel(また結合組織軟骨Bindegegewebsknorpelともいう), c)網状軟骨Netzknorpel(あるいは弾性軟骨elastischer Knorpel),なお付け足りとしてd)細胞軟骨Zeenknorpelおよびe)石灰化軟骨verkalkter Knorpelを数えることができる.

 石灰化軟骨を除けば,軟骨はすべて丈夫で弾性があり,色は青みをおびるもの,乳白色のもの,あるいは黄色のものがあり,特に胎児の体で,しかしまた成人の体においてもはなはだ重要な役目をなしている.その役目は軟骨の弾性や固さ,ならびにその表面が平滑であることによって達せられている.

 a)硝子軟骨はガラスのように透明な一見均質と思える基質をもっている.その中に大きい円形あるいは多角形の,そして繊弱な感じのする軟骨細胞が2個あるいはそれ以上の数のものが集まって存在する.その原形質は細かい顆粒を示し,脂肪滴やグリコーゲンをもっていることがある.核は球形で繊細な核材を示す.脂肪体はいろいろの試薬にはなはだ敏感である.処理が不適当なときには細胞体が縮んで,とげをもつ小塊となる.生体内あるいは個体が死んでもなお組織が生きている場合には軟骨細胞はそれを容れるための基質内の滑らかな壁を持つ部屋,すなわち軟骨小腔Knorpelhöhleを全く充たしているのである.軟骨小腔の内面に接するところは他の基質の部分とは化学的にやや異なっていて,抵抗もいっそうつよいのである.ここを軟骨小嚢Knorpelkapselという.

 1つの軟骨小嚢に包まれて2個の細胞をみることが稀でない.またそういう2個の細胞のあいだに薄い硝子様の隔壁のある場合もある.細胞が急激に分裂して,そのとき隔壁の形成がおこらないときは,細胞のかなり大きい群が1つの軟骨小嚢で囲まれる(図73, 74).

[図71]ウシの項中隔Lig. nuchae, Nackenbandの横断.

[図72]弾性板 ヒトの大腿動脈より得たもの.×75

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 意見したところ,どこも同じ性質であるかと思える基質が,ヘマトキシリン,ビスマルク褐,チオニンなどの色素に染まる傾向をつよくもっている.基質は大部分が細かい原線維より成り,これが原線維間物質によってまとめられている.過マンガン酸カリや食塩水をはたらかせたり,トリプシンで消化させたりすると,基質の組成がよくわかる.原線維は集まって束をなし,この束が多くの層をなして交叉もしくは交錯している.原線維亜また,軟骨小嚢の物質をも貫いているようである.

 比較的年配のヒトの肋軟骨の内部,また関節軟骨や骨の軟骨結合のところに,老人性変化として基質が粗な線維の形をなして避ける現象が起こる.その個所は肉眼的にアスベスト様の観を呈するので,石綿様変性asbestartige Degenerationとよばれる(図74).また年配のヒトの軟骨細胞では脂肪の含有量が増す.

[図73]硝子軟骨 カエルの新鮮な材料で関節軟骨より切片をつくったもの.図の中央部にある明るい隙間で,その中に小さい顆粒を示すものは標本作製のときにこわされた細胞の残りを含む軟骨小腔の一部を現わしている.(Schiefeerdecker und Kossei, Gewebelehreより.)

[図74]比較的年配の男の肋軟骨.横断.(Freyによる.)

 軟骨は初めはその内部を貫く血管を全く有しない.そのはたらきをもっているのは軟骨の表面を被っている結合組織膜すなわち軟骨膜Perichondriumの血管である.しかしその後に軟骨が大きくなったときには軟骨膜から血管が軟骨の内部に侵入する.そして成人の軟骨ではふたたび血管がみられなくなるのが普通である.しかし奥深く存在している軟骨細胞も栄養を受けなければならない.そうすると基質の内部に特別な液細管Saftbahnenがたぶん存在するのであろうか?いままでこの点はずいぶん研究されたが,まだ確かりしたことがさっぱりわかっていない.もっとも染色の仕方によると,基質の中にはなはだ立派な網の形をした構造があらわれて,その網の形をした構造があらわれて,その網の結び目にあたって軟骨小嚢がある.基質内の液の流れに関係を持つ構造がこれであるまいかと考えるのも無理からぬことである(Schiefferdecker).

 軟骨の石灰化Verkalkungは次のごとくにしておこる.まず軟骨小嚢のところに炭酸石灰が小さい顆粒の形で沈着するので,細胞はこの石灰化した軟骨小嚢によって全く包まれる有様となる.ついで石灰沈着は基質の残りの部分に及んでいくのである.

 喉頭や器官の軟骨では真の骨形成Knochenbildungが軟骨組織を押しの小手,しばしばおこるのであるが,これはChievitzによればすでに20才ないし22才ではじまるのが普通である.これはほとんど正常の現象とみなされる.

 軟骨の発生Entwicklung des Knorpelsは次のようにしておこる.若い未分化の結合組織細胞が大きくなって,組織細胞の原線維をつくる.この原性形成がすむと,線維芽細胞が前軟骨細胞Vorknorpelzellenと軟骨細胞に変化する.

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これで軟骨形成の最初の原線維星の時期が達せられたわけである.その後に原線維が均質な接合質の沈着によって目に見えない状態“Maskiert”になる.かくして硝子軟骨の基質ができたのである.線維軟骨と弾性軟骨では線維が目に見える状態にある.v. Korff, Arch. mikr. Anat.,84. Bd.,1914.

 しかしまた,軟骨の発生には間接的indirektなでき方がある.つまりすでにでき上がった他の組織すなわち軟骨膜あるいは小細胞性kleinzelligの結合組織から出発して軟骨が生ずるのである.

 一とたび生じた軟骨がさらにひきつづいて成長するのは一部は間接的interstitiell, 一部は付加的appositionellである.付加的というのは軟骨膜の深部の層が軟骨組織に変化して,かくして軟骨の厚さがますことである.

 軟骨の物質欠損Substanzverlusteの補充は温血動物では徐々におこるのみで,欠損が大きいとその補充は不完全にしかおこらない.そのさい再生現象は軟骨膜から出発する.

 硝子軟骨は上に述べた場所のほかに,またすべての線維軟骨結合や軟骨結合において骨に密接したところにある.なおまたそのほか骨の数カ所にみられる(長腓骨筋腱溝,翼突鈎溝,小坐骨切痕,アキレス腱の踵骨終止部).一石灰化した軟骨は人間では特に関節軟骨にみられる.それは硝子性にとどまっている部分とそれにすぐ続く骨との間のところにある.

b)線維軟骨はその量の大部分をなすのが膠原原線維の束であってこれらの原線維は少量の原線維間物質によってたがいに結合しており,またいろいろの方向に走ってたがいに交叉している.その間に孤立して,あるいは群をなして軟骨細胞が存在し,これらの細胞のおのおののが少量の軟骨基質によって囲まれている(図75).

c)弾性軟骨(図76)は硝子軟骨の一種で,その基質内に弾性線維および弾性板の密な網を有するものである.軟骨の表面に向かってこの弾性組織はだんだん少なくなる.そしてこれは軟骨膜の弾性線維と直接に続いている.

[図75]線維軟骨 ヒトの椎間円板より.細胞のまわりの同心性の線は基質が順々にときを追うて生じたことをあらわしている.

[図76]弾性軟骨 ヒトの耳より.×1000.

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 細胞軟骨Zellknorpelは成人には存在しないもので,軟骨細胞と軟骨小嚢,ならびにごくわずかの基質からなっている.脊椎動物の発生初期にみられる多くの軟骨,いろいろの哺乳動物の外耳の軟骨,また多くの魚類の鰓の小突起中にある軟骨の一部などがこの細胞軟骨である.Köllikerの先例に従って多くの学者は脊索の組織もまたこれに数えているが,一つにはその発生学的な由来が異なること,今ひとつの理由はその化学的組成からして,この説の妥当性は疑われる.発生学的および化学的の両見地からすれば,脊索組織はむしろ上皮性の組織の特殊な一群とすべきものであろう(34頁を比較参照せよ).

 Hintzsche, Umbildungen・・・Hyalinknorpel/ Z. mikr.-anat. Forsch., 25. Bd.,1931.

5.骨組織は石灰化した細胞間物質(あるいは原線維間物質)と石灰化しない膠原原線維と,豊富な枝分かれをしてたがいに吻合している骨細胞とからなる.

 骨細胞は基質の内部の空所内にあるが,この空所の形は骨細胞とその突起の形によく似ている.晒した骨では細胞がなくなってこの空所のみがよく見えるわけで,これを骨小体Knochenkörperchenあるいは骨小腔Knochenlücken oder Knochenhöhlenという(図79).

 骨小腔の多くはレンズ形をしていて,長さ13~31µ,幅6~15µ,厚さ4~9µであり,数多くの突起(骨細管Knochenkanälchen)をあらゆる方向に出して,この突起が隣のものとつづく.また骨という器官についてみると,骨細管の一部は骨内の大小いろいろの髄腔や血管の通る空所に通ずるし,また骨の外面にも開いているのである.

 骨細胞(図77, 78)は細胞膜をもたないで,その原形質は細かい顆粒を示し,核は楕円に近い形である.細胞体が数多くの突起を出して,これが近在の骨細胞の出す突起と結合している.

 v. Ebnerによると骨の原線維間物質は石灰化しており,その中にある骨の原線維じしんは石灰化していないという.他の学者によると骨の原線維も石灰化しているところである.原線維は束をなして集まり,その集束が異なる方向をとってたがいに交叉している.これによって生ずる形象がSharpey-Ebnerの層板現象Lamellenphänomenとう名称で知られている(図161).

 これらのはなはだ細かい原線維の他に,それより太くて,骨の表面から骨質の内部にはいっていく線維性結合組織の束がみられるのであって,これはSharpey線維,あるいは穿通線維durchbohrende Fasernとよばれる(図165).

 酸を用いて骨組織から無機成分(その集まりを骨土Knochenerdeという)を除去することができる.そのさい残っている有機成分を骨軟骨KnochenknorpelあるいはオッセインOsseinという.これは骨組織の構造をそのままに示しており,軟らかくて曲げることができ,メスで容易に切れる.

[図77]骨細胞3個(縦に置いて内部までみる.)ネズミRatteの肩甲骨より.×1200. (Ruppericht)

[図78]骨細胞1個(横に置いて内部までみる.)ネズミRatteの肩甲骨より.×2500. (Ruppericht)

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 骨の無機成分を取り除いてオッセインを得ることができるように,またオッセインを除去して無機成分だけを残すことができる.それは用心深く焼くのであるつまり灰化Verashungであって,そうすると有機成分がこわれてしまう(灰化骨calcinierter Knochen).この灰化骨が骨組織の細かい構造を保っていることはオッセインの場合と同様である.無機質と有機質とが如何なるぐあいに合しいるのか,すなわち単なる混合であるか,もしくは化学的結合の一種なのかがはっきりわかっていない.有機物をすっかり除かれた灰化骨はその形が良く保たれていても,脆くて容易に砕ける.無機成分がオッセインに沈着して初めて,骨組織の丈夫さが得られるのである.

 器官としての骨の構造および骨組織の発生については骨学のところで述べる.ここでは人体の発生において骨組織ほおそい時期に初めて現われることだけを指摘しておこう.胎生の第7週に鎖骨がその皮切りをするのである.

6. ゾウゲ質組織Substantia eburnea (Dentin), Zahnbeigewebeは原線維間物質と膠原原線維と特殊な細胞であるゾウゲ細胞Odontoblastenとより成る.

 ゾウゲ芽細胞の体はゾウゲ質組織の外にある.細胞体は円柱状あるいは西洋梨状であって,2つの突起をもっている.長い方の突起は歯線維Zahnfaserとしてゾウゲ質組織の中にはいる.そして途中で叉状に2分し,また数多くの側枝を出して,近くにある歯線維の側枝とつづいている.ゾウゲ芽細胞のもついま1つの突起はその下にある歯髄内の結合組織のほうにゆく.核は細胞の底部にあって,楕円に近い形をなし,クロマチンに富み,通常2個の核小体をもっている(von Korff).

 歯線維およびその枝はいずれもゾウゲ質を貫くゾウゲ細管Zahnkanalchen oder Dentinröhrcheという細かい管のなかにある.この細管の壁は他の基質に比べて,いっそうつよく光を屈折し,またいっそう固い.そこを歯線維鞘Zahnfaserscheide (Neumann)という.

 石灰化した原線維間物質は多量の細かい膠原原線維を有していて,この原線維は歯の表面に平行な方向に走っている.薄い酸で処理するとオッセインとほぼ同じ物質である歯軟骨Zahnknorpelが残る.

[図79]骨小腔(a, a)それから多数の突起が出て,横断されたハヴァース管(b)に通ずることを示す.(Freyによる)

[図80]ゾウゲ細管 ヒトの大臼歯の根を横断して研磨してつくった標本の一部.×350.

[図81]ゾウゲ芽細胞 ウシの胎児よりとり出したもの.Sは顆粒性の縁で歯線維鞘のはじまりである.(v. Korffによる)

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 なおゾウゲ質の内部には球間区Interglobularräumeといって,球状の面で境された特異な空所がみられる.これは原線維間物質が石灰化しなかった場所であって,歯線維はそこを貫いて通っている.

[図82]疎性結合組織内の脂肪細胞.スダンIIIをもって脂肪はオレンジ色に染められている.×300.

[図83]ヒトの脂肪組織.切片標本.

7. 脂肪組織は脂肪細胞,膠原線維,弾性線維,格子線維,および細胞間(原線維間)物質から成っている.

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 脂肪細胞は円くて大きい脂肪であり,トリプシンで消化されない丈夫な膜で囲まれている.健康な人だとこの脂肪は脂肪でいっぱいに充たされているので,脂肪球の表面と細胞膜の間に原形質のごく薄い層があるのみである.しかし細胞核のまわりでは原形質がいくらか厚い層をしている.核は楕円に近い形をしており,膜と脂肪球とのあいだに押されて存在するためにやや扁平である(図82,83).2核をもつ脂肪細胞がみられることがあり,時には3核のものある.2つ以上の核があるときは,それらの核がたがいにすぐそばに接近していることと,いろいろ異なる距離で離れていることがある.

 新鮮標本を染めないままでみると脂肪細胞の核と原形質はこれらが光学的断層optischer Durchschnittにあるときに限って,はっきりと観察される.その他の一では脂肪滴の輝きがつよくて核の像は全く消されてしまう.脂肪がまだ細胞を完全に充たしていないとき,あるいは消費されて脂肪が減ったときは,その細胞像がいっそうよく理解できる.そういう細胞では核と原形質がはなはだたやすく認められるのである.脂肪の含有が少ないときは脂肪球が1個でなくて,それが2個以上に分かれていることがある(図84,85).

 核の内部に1個の脂肪小滴があるときLochkern(有孔核)の像が生ずる.

 個々の脂肪細胞のあいだは少量の結合線維があって連ねられている.この結合裾域の誓詞は最初に述べた疎性結合組織と同じものである.

 Plenk (Verh. anat. Ges.,1927)によると脂肪細胞は真の細胞膜をもっていないので,細胞膜とみえるものは実はその細胞から分泌された基質とみなすべきものである.但しこの基質は近くにある細胞のまわりの膜とつづいていない.この基質性の被膜のなかに銀好性線維がある.しかし機能的にはこの膜が細胞膜の意味をもっているという.以上の説に反してWassermann (Z. Zellforsch., 26. Bd.,1937)は脂肪細胞の膜は真の細胞膜であると唱えた.その膜のうえに外形質Exoplasmaに由来する細胞の分泌があり,その分泌の中に原線維が含まれているという.

 脂肪細胞のでき方は:1. 普通の結合組織細胞が脂肪を摂取し,あるいは製造することによって,結合組織の内部でかなり散在した状態であらわれる.2. 脂肪器官Fettorganeともいうべき特別な器官をなしてできてくる.これはKöllikerがPrimitivorgane der Fettkeimleger(脂肪のもとをなす倉庫)とよんだものである.これは脂肪をもっていることも,もっていないこともあるが,何しろ特殊な脂肪組織である.これらの脂肪器官の出発点はやはり若い結合組織細胞であるが,その集まりが灰赤色の小葉をなしてあらわれる.それをなす細胞は丸みをおびた多角形で,細胞膜を欠き,顆粒をもたないで,きれいな核をもっている.形質細胞と似ているのである.これらの事実はWassermannの研究(Z. Zellforsch., 3. Bd.,1926)によっても確かめられたが,Wassermannはこうゆう脂肪器官を結合組織とは別の新しい形成物と考えたのである(z. Kreislaufforsch., 23. Jahrg.,1931).

 身体における脂肪組織の意味ははなはだ大きい.栄養の目的の他に外力に対して体を保護する蒲団であり,熱を保つための被いもものであり,鋭い高まりやへこみをなくしたり,隙間をみたす詰めものとして大きい役目をなしている.詰めものの例としては黄色骨髄がある.栄養のより人体では脂肪組織の目方は15キログラムか,それ以上にまで達する.

[図84]脂肪組織の退行Rückbildung (Freyによる).やせた衰えたヒトの死体の皮下結合組織より得たもの.aは大きい脂肪滴をもつもの,bは小さい脂肪滴をもつもの,cとdは核がみえるものも,eはばらばらになった脂肪滴をもつ脂肪,fは小さい脂肪滴を1つだけもつもの,gはほとんど脂肪を有しないもの,hは脂肪がなくて,蛋白質様の物質の1滴を細胞体の部分に有するものである.

[図85]脂肪組織の発生Entwicklung (Freyにる.)10インチの長さのヒツジ胎児の腎臓のまわりにある脂肪組織の細胞.aとbはまだ始部を有たない細胞,cは脂肪を有たない細胞の集まり,d~hは細胞体の一部を占めて細胞がいろいろの量にたまってゆく各段階を示してある.

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8. リンパ様組織lymphoides (cytogenes, adenoid. es, retikuläres)Gewebeはリンパ細網組織lymphoretikuläres Gewebeという名前がいっそう適切であるが,大部分が円い小さい細胞(リンパ球)より成り,結合組織性の線維が網状をなして支え,また少量の細胞間物質がある.

 リンパ球は小さい球形の脂肪である.この細胞の大部分を占めて球形の核があり,声は密なクロマチン網を示す.原形質は核のまわりにせまい縁をなすのみである.この小さい細胞の他に数はいっそう少ないがもっと大きい核をもち,細胞体もいっそうよく発達している細胞がみられる.これらの細胞は細胞線維Retikulumfasernという結合組織線維がつくる支柱の網の目に存在する.この網はリンパ球があまり多数であるため,それに被いかくされている.切片標本をつくって,細胞成分を筆で掃いのけたり,切片を揺り動かして細胞を除くか,あるいは特殊染色で細網線維をそめることによって,初めて支柱をなす網の像をはっきりみることができる.細網組織retikuläres Gewebeという名称はこの像に基づくのである.

 リンパ様組織は体内にはなはだ多くの存在する.特にこれはリンパおよび血液をつくる多くの重要な器管にある.すなわち数多いリンパ節,孤立および集合リンパ小節,所々にある扁桃,胸腺,脾臓の中にある.なお粘膜の定まった場所,舌や腸や呼吸器系の粘膜および結膜にもみられる.

 これらすべての場所でリンパ様組織はリンパ球や白血球の発生するところBrutstätteとみなさえるのである.扁桃の組織や孤立および集合リンパ節の組織は比較的近年の研究によれば上皮細胞とリンパ球とが密接に混じり合ったものから生じたといわれる.そのためにリンパ上皮組織lumphoepitheliales Gewebeとよばれるのである.

[図86]リンパ球をもつ細網組織.ヒトのリンパ節より.×600.

9. 色素結合組織pigmentiertes Bindegewebeは色素結合組織細胞すなわち枝分かれをした細胞体で,これが色素顆粒でみたされている結合組織細胞を多数にもったことが特徴であって,そのほかに膠原線維と弾性線維また色素顆粒をもたない別の種類の結合組織細胞ならびに少量の細胞間(原線維間)物質がある.

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 この細胞は結合組織細胞1)の細胞体に褐色の色素顆粒がつくられるか,あるいは取り込まれることによって生ずる.細胞体が色素顆粒で全く充たされていることがある.しかし核はそのときも色素顆粒を有しないで,それを被いかくそうとする色素の中から明るい小胞としてみえるのである.はなはだ普通に色素細胞は枝分かれして,星形を呈している.

 色素結合組織細胞の存在は人間では眼(眼球中膜と強膜),クモ膜,および皮膚に限られている.

1)色素上皮細胞pigmentierte Epithelzellen, 色素結合組織細胞pigmentierte Bindegewebzellen, 色素神経細胞pigmentiete Nervenzellen, 色素筋細胞と色素筋線維 pigmentierte Muskelzellen und-fasernがある.色素は常に組織細胞Gewebezellenの内部にある.色素上皮細胞は有色人種の皮膚に広い範囲にわたって存在する.白色人種では陰茎,陰嚢,肛門付近,腋窩,眼瞼の皮膚や眼の結膜にそれがある.色素は主として表皮の下部の細胞層にある.色素結合組織細胞は体じゅうどこにも存在し得るが,最もその数の多いのが眼球中膜Tunica media oculi(すなわち脈絡膜と毛様体と虹彩)であり,それについで多いのはすぐ上に述べた皮膚の一部で色素に富む場所である.動物では色素顆粒をもつ軟骨細胞pigmentierte Knorpelzellenも存在する.まだ瞳孔散大筋M. dilatator pupillaeは色素筋細胞よりできている.色素神経細胞は中枢神経系の特別の場所にある(黒核Nucleus niger,青斑Locus caeruleus).比較的年配の人の神経細胞には正常の現象と色素が存在する.(原著註)

10. 内皮組織は脈管の内面を被うごく薄く平たい細胞から成っている.個々の細胞は扁平で,その輪郭は多くの場合不規則な波状である図88,89).ただ2,3の個所,たとえば前眼房の内皮では直線的の境をもった規則正しい五角形あるいは六角形の板状の細胞がならんでいる.モザイック状に配列した細胞の縁のあいだには細胞間橋と細胞間隙とがあり,後者を通って液が通じ,遊走細胞が移動している.内皮細胞の表面は,つまり内皮が囲むところの空所に向かっている表面であるが,個々は平滑であって,比較的固い1層をなしている.扁平な楕円形の細胞核があって,局部的にそこだけ細胞体が高くなっていることが少なくない.

 脾臓の静脈性毛細管(いわゆる脾洞Milzsinusのことである.(小川鼎三))の内皮細胞(II巻をみよ)は特別な形をしている.それは細長くて,両端が尖ってい終わる棒の形であって(杆状細胞Stabzellen),その核は管の内腔の方につよく突出している.

 肝臓の小葉内の毛細管の内皮細胞もまた特異性を示す.その細胞境界が銀液で処理しても検出することができないのであって,従っておそらく合胞体Syncytiumなのである.

11. 胎児性結合組織embryonales Bindegewebeは初めはただ,たくさん枝分かれをした星形の細胞がその枝でたがいに結合して(すなわち吻合して)おり,その細胞のあいだにムチン(粘液素)をもつ膠様の物質があるのみである(図63).その細胞の核は楕円に近い形か,あるいは細胞体の形に応じて不規則な形をしている.

 胎児の結合組織がこの形態にとどまるのは短い期間のみであって,まもなく細胞の中にも外にも膠原性および弾性の原線維が各々の場所によって様子はちがうがあらわれる.しかし細胞間の膠様物質は何しろ後ろまで豊富に存在しているので,出産の時でも臍帯の組織はそのときはなはだしく線維に富んでいるにかかわらず,なおジェリー様の性質を示すのである(ワルトン軟肉Whartonsche Sulze).また胎児の結合組織が永くみられる場所としては内耳の膜迷路のまわりである.これが液化していわゆる外リンパ腔perilymphatische Räaumeが生ずる.

[図87]色素結合組織細胞 眼の脈絡外層Stratum perichoriodeum. ×600.

[図88]脳軟膜の動脈の内皮.硝酸銀で処理して細胞の境をあらわしてある.×300.

[図89]リンパ管の内皮.モルモットの腸の筋層より.×240. (Auerbachによる.)

 

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最終更新日 12/12/27

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