BoekeおよびStöhrの研究によって次のことがわかった.それは(特別な終末装置を除いて)交感神経系の終末は交感神経が終るすべての場所で,結合質組織の細胞でも,平滑筋線維,心筋線維,腺細胞,神経細胞でも同じ形をして終るのである.
交感神経線維の終末はごく繊細な網材の形であり,その最終の部分はそれが分布する細胞の内部にある.Stöhrはこれを神経性の終末細網nervöses Terminalretikulumと名づけ, Boekeはこれを終末周囲網状体periterminales Netzと命名した.もっとも後者は細胞内にある終末細網の部分のみに当るのである.
終末細網はまだシュワン細胞を有った極めて細い神経索から起る.これは支配される諸器官を構成する細胞の外部および内部に1つの原線維網を形成する.しかしBoekeは細胞の外部にある終末細網の部分をsympathischer Grundplexus(交感性の基礎叢)と命名している.細胞の内部にある部分だけが彼のいう終末周囲網状体periterminales Netzである.この交感性の基礎叢は1つの合胞体5動砂彦勿解であって,これはたがいに結合したごく細い神経線維索よりなり,この線維索がごく繊細で,必ず無髄であり,網状にたがいにつながった神経原線維の集まりでできていて,必ずシュワン核を有し,細胞の境界は認められない.
Stöhr, Pk., jr., Acta neurovegetativa 1. Bd.,1950.
[図581]1本の小動脈の壁における終末細網 ヒトの耳下腺から得たもの.動脈壁に切線方向の断面.mf平滑筋線維;Sk シュワン核.(Boeke, Z. mikr.-anat. Forsch., 34. Bd.,1933による)
[図582]筋層のない静脈壁における終末細網 ヒトの胃. ×1000 (Ph. Stöhr, Z. Anat. Entwgesch.,104. Bd.1935による)
a)横紋筋における終末については第I巻,図474, 475を参照せよ.
b)平滑筋における終末.終末細網は平滑筋線維の表面を被い,原線維性の多数のものが個々に筋形質のなかに入っている(図112).
c)心筋における終末については554頁および図569を参照せよ.
心臓の求心性神経の終末.
d)血管壁における終末.動脈の外膜には太い線維束よりなる神経叢があり,その線維は多くは無髄である.この神経叢は血管壁のみならず,その近くにある器官(腺細胞,,近くの平滑筋)にも分布している.この神経叢の網の目には終末細網があり,これが血管外膜のすべての細胞を包み,その中に入りこんでいる.中膜と外膜の境のところにはいっそう目の細かい神経叢があり,これから終末細網がでて中膜に達し,その筋細胞を被い,またその内部に入りこんでいる.内膜のなかにも終末細網があり,これは毛細管におけるようにおそらくは内皮細胞の中にも入りこんでいるのであろう.
静脈の神経支配は動脈のそれと似ている.そのうえ全く筋層をもたない静脈でも終末細網を有っている(図582).
外膜細胞と内皮細胞だけからなる毛細管壁も終末細網の分布を受けている(図583).
求心性の血管神経Zentripetale Gefäßnervenの終末は比較的太い動脈の外膜と柔膜内の比較的細い動脈において証明されている.頚動脈洞の外膜のなかには神経性の終末装置があり,これはSmirnowが心房の内膜で記載したものに似ていると思われる.これらがおそらく洞反射sinux-Reflexを仲介するのであろう.
[図583]毛細血管の神経叢
[図584]ヒトの涙腺 終末部の行きづまりの端で 交感神経性の基礎叢を平面的にみたもの(Boeke, Z. mikr.-anat. Forsch., 35. Bd. )
e) 脾臓の中での終末.脾動脈に伴なってこの器官に達した神経叢のつづきは脾臓内で動脈の諸枝に接している.この動脈の枝を取りかこむ神経叢からは多数の枝がでて脾柱内と脾髄内とに達している.脾柱の神経は主としてその平滑筋に分布し,しかもその終り方は平滑筋について上に述べたのと同じぐあいになっている.脾髄の神経はわずかに存在するのみで,ここでは(Regele, Z. Zellforsch.,9. Bd.,1929によれば)脾髄の基礎をなしている細網細胞の内部を通っている.脾臓の被膜も漿膜下神経というべきものを有っている.
f) 各種の内臓における終末.
1. 腺における終末.腺の中に入りこんだ無髄神経線維束は腺体のあいだのところで分枝し,Boeke(Z. mikr.-anat. Forsch., 35. Bd.,1934)によればここで基礎神経叢を形成している.その線維は(耳下腺と涙腺とでは)おのおのの終末部やかなり細い導管に触れているのみでなく各腺細胞に接触しているのである.この神経叢は必ず基礎膜の外方にあって,それからは時にただ1本の神経原線維だけでできている極めて細い線維がその終末部の内部に入り,ここでは腺細胞のあいだを通り,細胞じしんの内部にも入りこみ,そこでごく小さい輪をなして終わっている.また腺体にみられる分枝した筋細胞もその内部に明白なごく繊細な神経網をはっきりと示し,これが基礎神経叢から出ているのである.
比較的細い導管もやはり基礎叢で囲まれている.これらの導管の上皮細胞のあいだにはごく細い神経性の線維が豊富に存在して,これらがその細胞の内部にも入りこみ,そこで終わっている.
これと同じような神経支配がおそらくその他のすべての腺においても存在すると思われる.
2. 食道の上皮内における終末(図587).上皮のすぐ下にある繊細な神経叢から神経線維が発して,その上皮内に入り,ここで分枝している.
3. 胃腸の管Magendarmkanalにおける終末.腸壁のすべての層のなかにはStöhr(Z. Zellforsch., 21. Bd.,1934)によれば神経性の終末細網が存在する.これは平滑筋線維・腺細胞・結合組織細胞・脂肪細胞ならびに神経細胞を“1枚の薄いヴェールのように”包んでいる.ごく細い原線維がこの終末細網からでて,一部はそれが分布する細胞の形質内に入りこんでいる.胃の壁Magenwandでは迷走神経線維と交感神経線維とがアウエルバッハおよびマイスネルの大きな両神経叢の細胞からの突起といっしょになって神経性の終末細網を形成しているに違いない,虫垂WurmfortsatzについてReiser(Z. Zellforsch.,15. Bd.,1932)が同様なことを確かめている.
4. 肝臓における終末.その神経は血管壁および胆管の壁にある神経叢の形をなして肝臓に達している.血管や胆管の分枝に伴なってこの神経叢もますます繊細なものとなる.胆管の上皮の内部には細い上皮内神経線維がある.小葉間結合組織のなかには繊細な神経叢があって,これが肝小葉の表面を被い,線維を小葉内に送りこんでいる.小葉間血管と小葉間胆管の壁の神経叢もやはり同じことをする.肝小葉の内部ではそこに入ってきた神経線維がいく度も同じ太さに2分したり,あるいは小さい側枝をだし,毛細血管の壁と肝細胞索とのあいだにある目の荒い終末網をなしている(図589).この網からは枝がでて肝細胞の内部に入り,そこで終末輪Endöseをなして終る(図590).しかし肝細胞の表面に1つの小板Plättchenをなして終わっていることの方がいっそう多い.(Riegele, Z. mikr.-anat. Forsch.,14. Bd.,1928)
6. 肺における終末についてはHandbuch der mikr. Anatomie, Bd. IV,1. におけるStöhrの著作を参照せよ.
7. 腎臓における終末.
その比較的太い神経枝は動脈に伴なって賢門に入る.1本あるいは2本の細い枝が皮質放線動脈の各々について進み,そこではすでに血管壁について上に記したのと同じような関係になっている.また神経の細い枝がすべての輸入細動脈に伴なってすすみ,これにからみついたまま糸球体に入るところまで進む.糸球体そのものおよび輸出細動脈のところでは神経が見られていない.尿細管の基礎膜の上には極めて細い無髄線維のつくる神経網があり,これから小枝がでて上皮のなかに入っている.
8. 膀胱の上皮における終末(図588).
家兎の膀胱では神経線維が結合組織から上皮に入る.そして上皮のなかでは多少とも豊富な枝分れをしたのちに自由終末をなして終わっている.それらの神経線維はすべてある長さだけ上皮内を切線方向にすすむ.しかしその終末は決して上皮の表層にあるのではなくて深層にあり,細い線維の終末部が深層に向かって曲がって逆行していて,結合組織と上皮との境界の近くで終わっている(G. Retzius).
9. 卵巣における終末(図592).
神経は卵巣門から入り,血管のあいだおよび血管壁に接して密な神経叢を形成する.これは大部分が無髄線維よりなっている.卵巣の中心部にある神経叢からその周辺部に達する枝が放散してでている.これらの枝は個々の線維にばらばらに分れ,そして1つの密な神経叢を形成する.中等大および大きな卵胞の卵胞膜のなかで細い線維が網をなしており,おそらくこれから枝がでて卵胞上皮のなかに入るのであろう.
間質細胞のあいだにも同様に細い線維よりなる密な網が存在する.
[図585]ヒトの涙腺 交感神経性の基礎叢(Sy. pl. )をもつ2つの腺体の断面;S. K. シュワン核(Boeke, Z. mikr.-anat. Forsch., 35. Bd. )
[図586]ヒトの涙腺 上皮細胞間神経線維をもつ1つの腺体の横断.Sy. pl. は交感神経性の基礎叢(Boeke, Z. mikr.-anat. Forsch., 35. Bd. )
[図587]食道の重層扁平上皮における神経終末(G. Retzius) n 神経線維;b 結合組織;e 上皮.
[図588]膀胱の上皮における神経終末(G. Retzius) n 神経線維;b 結合組織;e 上皮.
[図589]ハトの肝臓における神経終末(KorolkowおよびDogielより)
肝細胞索間の神経叢Zwischenbalkengefiechteおよび細胞表面の神経網Überzellennetze. a 肝細胞索間の神経叢の軸索;b 細胞表面の神経網を形成している原線維;c 肝細胞索.
10. 精巣および精巣上体における終末(図593, 594).
これまでにおこなわれた諸研究の結果はまだこの問題を十分に解決していない.血管に伴なっている神経叢から少数の線維が分れてでて,精細管の基礎膜に密接している.
小さい線維が精上皮のなかに入っているかどうかはまだよくしらべられていない. また精巣上体においても細い神経線維が精巣上体の小管の壁にまで追跡されたことがあるに過ぎない.
11. 腹膜での終末については286頁参照.
Boeke, J., Zeitschr. mikr.-anat. Forsch., 4. Bd.,1926;Jahrbuch Morph., 39. Bd.,1936.--Stöhr, Ph., jr., Handbuch d. mikr. Anat. d. Menschen, 4. Bd.,1. Teil,1928.
[図590]1個の肝細胞の内部における神経終末 ×1000(Riegeleによる)
[図591]イヌの気管の線毛上皮細胞における細胞周囲の神経終末(A. Arnstein)
[図592]卵巣内の神経 イヌ (Stöhrより,Ganfiniによる) a 血管;f 卵胞;n 神経線維;si 間質細胞.
[図593]ネコの子供の精巣上体頭における神経(断面) (Timofeew)
[図594]家兎の精細管における神経 a 血管.(G. Sclavunos)
最終更新日 12/04/13
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