Rauber Kopsch Band2. 71

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交感神経系における線維の走行
A. 概説(図399, 579, 580)

 規則としてはただ2のニューロンだけが中枢神経と末梢とのあいだの伝導をつかさどる.それは求心性(受容性)にも遠心性(効果性)にもそうなのである.

 遠心性の経路を先ずしらべてみよう.交感神経の1次の効果性ニューロンI. effectorisches Neuronの細胞体は中脳・延髄・脊髄のなかにあり,その神経突起は交感神経の脳脊髄性運動性(効果性)線維とよばれる.

 脊髄ではその細胞体は側柱およびこの後方に続く灰白質の辺縁部にある.その神経突起は前根に伴なってでて,白交通枝を通って交感神経幹に達する(図399).

 中脳と延髄とからおこる交感神経線維は動眼神経・顔面神経・舌咽神経・迷走神経のなかを走る.

 交感神経のこの1次効果性ニューロンの神経突起有髄性である.これは長短いろいろの経過ののちに交感神経幹の神経節あるいは末梢の交感神経節の細胞に終る.それゆえこれらの線維は節前線維Fibrae praeganglionares, Praegangliondre Fasern(Langley)とよばれる.

 交感神経の2次効果性ニューロンII. effectorisches Neuronの神経突起はこれに反して無髄性である.これを節後線維Fibrae postganglionares, postganglionäre Fasern(Langley)とよぶ.これは多くは直接にそれ以上のニューロンの介在なしにその終末領域に達するので,一般に2つのニューロンだけが中枢神経と末梢とを結合することになる,--しかしおそらくは一定の領域には交感性の3次および4次ニューロンが存在するであろう.

[図579]交感神経における線維の走行を示す模型図(A. Köllikerより)

PG 末梢の神経節;Gs交感神経幹の神経節;PK ファーテル層板小体;Rca(白)交通枝;Rcgr (灰白)交通枝;St交感神経幹の幹;g神経節からの線維Ganglienfasernで,交通枝のなかをすすんで,脊髄神経の後枝をへて立毛筋に達するもの;g1神経節からの線維で,交感神経幹の中をさらに走ってゆくもの;g2神経節からの線維で,その起りをなす神経細胞は線維m5の1側枝によって支配されている;g3神経節からの線維で,その起りをなす細胞は交感神経幹の中を下行する脊髄神経の線維m6によって支配され,末梢の神経節のさらに向うで終わっている;g4神経節からの線維で,これは末梢の神経節で起り,それより末梢の方で終わっている;m1脊髄性の運動線維,これは脊髄神経節そのもののなかで終る;m2脊髄性の運動線維,これは交感神経幹の中をさらに進む;m3脊髄性の運動線維,これは[交感]幹神経節の白交通枝Ramus communicans albusから来て,幹神経節と末梢の神経節を通過して,さらに進みいっそう小さい神経節で終る;m4脊髄性の運動線維,これは交感神経幹の中を下行し,[交感]幹神経節を通過して,末梢の神経節で終る;m5脊髄性の運動線維,これは交感神経幹のなかを下行し,幹神経節の中で1本の側枝をだし,この側枝は1個の細胞のまわりに終る;m6脊髄性の運動線維,これは交感神経幹の中を下行し,幹神経節の中で終わっている;m7脊髄性の運動線維,これは交感神経幹の中を下行し,末梢の神経節を通過してさらに進み,いっそう小さい神経節で終わっている;s 知覚性の脳脊髄神経線維,これは両神経節(脊髄神経節と[交感]幹神経節)より末梢で1個のファーテル層板小体PKのなかで終る(ここで始まるという方がよい);s1 知覚性の脳脊髄神経線維,これは交感神経幹の中をさらに進む.--点線=知覚性の脳脊髄神経線維.神経節のなかを通過する黒い線=脳脊髄神経の1次運動線維(節前線維Langley).赤い星印と赤い線=交感神経の2次ニューロンとその神経突起(節後線維Langley).

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 節後線維の大多数は交感神経の諸枝とこれらがつくる神経叢のなかを走っていろいろの内臓にいたり,あるいは交通伎を通って脊髄神経に達し,脊髄神経の枝とともにその終末領域(血管・皮膚とその付属器官〉にいたる.少数のものが脊髄神経節に達する.

 求心性の経路は主として無髄性の線維よりなり,その一部は節後線維であり,一部は脊髄神経節の細胞から末梢への突起である.これらの突起は興奮を脊髄神経節の細胞に伝え,その興奮は脊髄神経節の細胞からさらに中心の方向に伝えられるが,それも脊髄に達して反射を起すものもあり,また脳に達して意識にのぼるものもある.

 その機能および一定の化学的物質に対する態度によって次のものを区別する:

I. 狭義の交感神経は交感神経幹とその神経節,さらにこれらの神経節からでる多くの枝とそれがつくる神経叢とよりなる.一その節前線維は脊髄の第8頚分節から第2あるいは第3腰分節にまで達する部分のみから発している(図579).

II. 副交感神経Parasympathicus.これは形態学的には識別できず,ただ機能的な概念でしかない.これにはHirtによれば,交感神経幹から起らないで,交感神経と相ならんで植物性機能の諸器官に分布する神経要素がみなこれに属するのである.その節前神経は中脳(脳部Pars encephalica).延髄(菱脳部Pars rhombencephalica).仙髄(仙髄部Pars sacralis) (S. II~IV)より起こっている.Hirt, Kiss, Ken Kuréによれば副交感神経線維は脊髄のすべての部分から発する(Kuréの脊髄副交感神経Spinalparasympathicus),それゆえ次のものを区別しなければならない:

I. 脳部Pars encephalicaは1. 中脳部Pars mesencephalicaと2. 菱脳部Pars rhombencephalicaに分れる;

II. 脊髄部Pars spinalisは頚髄部Pars cervicalis・胸髄部Pars thoracica・腰髄部Pars lumbalis・仙髄部Pars sacralisに分れる(図580).

 それゆえ交感神経系と副交感神経系との節前線維は中枢神経内のたがいに異なった場所から起るが,両者の節後線維同一の器官を支配している(図579).しかし両系統は多くは反対的に作用するのである.

 たとえば動眼神経のなかを走る副交感線維は瞳孔を縮小させるようにはたらくが,交感神経に由来する線維はこれを拡大させるようにはたらく.また副交感性である迷走神経は心臓の運動を抑制し,交感神経はこれを促進する.これとは反対に腸ではその運動を迷走神経が促進するが,交感神経はその運動を抑制する.一定の化学物質に対する態度については生理学および薬理学の成書を参照されたい.

  Langley , Das autonome Nervensystem, übersetzt von E. Schilf, Berlin 1922. Ken Kuré, Über den Spinalparasympathicus. Basel 1931.

B. 詳説Im besonderen
I.狭義の交感神経(図580)

 その節前線維は第8頚分節から第2あるいは第3腰分節までの範囲で側柱のなかおよびその後方に続く灰白質の辺縁部にある細胞から発する.これらの線維は前根とともに脊髄の外にでて,白交通枝を通って交感神経幹に達する.交感神経幹の中ではC. VIIIおよびTh.1~VIからの線維は上方にだけ進み,Th. VII~Xからの線維は上方と下方とに進み,Th. XIよりLIIIまでからの線維は下方にだけ進む.これらは交感神経幹の神経節の中で終るか,あるいは腹腔神経節・上腸間膜動脈神経節・下腸間膜動脈神経節のような末梢の神経節の中で終る.その節後線維は交感神経の諸枝を通っていろいろの内臓に達し,あるいは交通枝をへて脊髄神経に,またこの中をすすんでその終末領域に達する.

 頚部交感神経Halssympathicusの節後線維は瞳孔散大筋に分布するが,それにはこの線維は頚動脈神経叢・毛様体神経節の交感根・短毛様体神経の仲介によってこの筋に達している.さらに眼窩と上下の両眼瞼にある平滑筋・頭部と頚部の脈管と汗腺,さらに唾液腺と涙腺にも達するのである.

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[図580]交感神経(赤)と副交感神経(青)の模型図(Meyer-Gottlieb, Pharmakologieより引用し,その後の研究に従ってA. Hirtが改訂したもの. )

 胸部と腹部交感神経の節後線維は胸部と腹部のいろいろの内臓に分布している.胸部内臓に達する線維は星状神経節より発し,腹部内臓に達するものは腹腔神経節と上腸間膜動脈神経節とからおこり,その節前線維は大と小の両内臓神経のなかを通る.

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下行結腸および骨盤内臓に達する節後線維は下腸間膜動脈神経節から発している.なお体幹と四肢の脈管および皮膚(皮膚の腺と筋肉をふくめて)に胸部と腹部の交感神経の節後線維が分布している.

II. 副交感神経系Systema nervorum parasympathicum(図580)

I.脳部Pars encephalica

1. 中脳部Pars mesencephalica.中脳からおこる節前線維は動眼神経のなかを通り,毛様体神経節の短根をへてこの神経節に達する.その節後線維Postgangliondre Fasernである(JNAでは副交感神経線維がRamiという間違いを起しやすい名でよばれているが,ここではそれをやめて線維Fibrae, Fasernと呼んでおく.(原著註))Fibrae musculares intrabulbares(眼球内部の筋ぺの線維)は短毛様体神経を通って瞳孔括約筋と毛様体筋とに達する.

2. 菱脳部Pars rhombencephalica.延髄の節前線維は顔面神経・舌咽神経・迷走神経に伴なって走る.

 顔面神経とともに走る線維は橋の唾液核Nucl. originis salivatori'us pontis(=中間神経の分泌核Nucl. secretorius n. intermedii)から発し,1. 大浅錐体神経のなかを大浅錐体神経の涙腺線維Fibrae lacrimales n. petrosi superf. majorisとしてすすみ翼口蓋神経節に達する.この神経節からでてゆく節後線維は涙腺にいたり,また鼻腔と咽頭の粘膜に分布する.2. 鼓索神経のなかにふくまれる線維は鼓索神経の腺線維Fibrae glandulares chordae tympaniとよばれ,これは顎下神経節と舌下神経節とに達するのである.この両神経節から発する節後線維は顎下腺と舌下腺,舌の前方部ど口腔底に分布する(図499).

 舌咽神経のもつ節前線維延髄の唾液核Nucl. originis salivatorius medullae oblongatae(=舌咽神経の副起始核Nucl. orig. accessorius n. IX. )から発し,舌咽神経の腺線維Fibrae glandulares n. IX. として鼓室神経と小浅錐体神経とのなかを通って耳神経節に達し,その節後線維は耳下腺に達する(図499).

 迷走神経N. vagusに伴なって走る節前線維迷走神経背側核Nucl. originis dorsalis parasympathicus n. vagiから発し,この神経に支配される諸器官(心臓・肺・胃・辟臓・膵臓・腎臓・腸)の内部にある諸神経節にまで達する.ここから節後線維がはじまる.しかし肺と心臓にはまた胸髄からでる脊髄性の直接線維direkte Fasqrnも来ており(イヌでこのことがBraeuckerにより証明された),腰髄からは腎臓への脊髄性の直接線維がでている(EllingerおよびHirt).

II. 脊髄部Pars spinalis

 脊髄から発する副交感線維は後根を通ってすすむのであって,主として血管拡張作用と立毛作用をつかさどるものである.その仙髄部Pars sacralisは特に大きな意義をもっていて,すなわち仙髄から発する節前線維は第1~第3仙骨神経のなかを進み,直腸神経叢の神経節に達している.その節後線維は下行結腸・直腸・膀胱・生殖器に分布するのである.

 Hirtは諸器官の交感神経線維と副交感神経線維の起始および走行が一目で見当がつくような一覧表を発表している(Schweizerisches med. Jahrbuch 1931).また機能の点に立脚してまとめた1つの表をThörnerがDie med. Welt.1936に載せている.

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最終更新日 12/04/13

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