終脳は次の各部よりなる:
1. 左右の大脳半球Hemisphaeria,両側にある対称的な半球形の部分,
2. 第三脳室終板Lamina terminalis(346頁)と,脳梁Corpus callosumと前交連Commissura rostralis,これらは両側の大脳半球をたがいに結びつけている.
脳の他の部分との結合:
伝導路Leitungsbahnenを問題外とすれば,終脳はすぐ接している所の間脳とだけ続いている.それゆえメスを加えてない脳では,背方から見ると終脳以外のものは全く見えず,したがって終脳以外の部分の背側面を見るためにはこれを被っている終脳の部分を取り除かれなければならない(図407, 411, 414, 418, 422を比較されたい).
位置.左右の大脳半球は,その底が前頭蓋窩および中頭蓋窩のなかにあり,また後頭蓋窩の天井をなす小脳天幕の上にもあり,頭蓋の円蓋部にまでも達する腔所をほとんど完全に占めている.
形.両側の大脳半球のあいだを分ける深い裂け目は中央の部分では脳梁の上面にまで達し,脳梁の下では脳弓にまで達しており,脳梁の前方および後方では特にさえぎるもののない深い切れこみとなっている.この裂け目は半球間裂Fissura interhemisphaericaと呼ばれる,これに対して終脳間脳裂Fissura telodiencephalicaと名づけられる裂け目は大脳と小脳とのあいだにうしろから入り込んでいる大きな水平方向のものである.
おのおのの大脳半球には次の3面を区別する:すなわち,1. 大脳凸面Facles convexa,これは矢状方向に延び且つ横の方向にふくらんだ面で背外側面dorsolaterale Flächeである.2. 大脳底面Facles basialis,これはわずかにへこんだ脳底面basale Flächeである.3. 半球内側面Facles medialis hemisphaerii,これは垂直方向で,平らな内側面mediale Fläche,あるいは内側壁mediale Wandである.
各面の移行する縁はあるいは強く,あるいは弱く円味を帯びていて,大脳半球の稜Kantenと呼ばれ,これに次のものを区別する:すなわち,1. 背側稜dorsale Kante, Mittelkante,これはしばしば外套稜Mantelkanteとよばれる.2. 底側稜basate Kante,脳底において前者の続きをなして内側にあるもの.3. 外側稜taterale Kanteである.
各大脳半球においては,次のものが区別される:すなわち,脳幹の末端に接している幹部Stammteilとそれを除いた残りの外套部Mantelteilとである.
大脳半球の幹部Stammteilは嗅脳Rhinencephalonと島Inselとよりなる.
大脳半球の外套部Mantelteilは前下方に開いた輪のような形で幹部をとり囲んでいる.これは場所によっていろいろな部分に分けられる:すなわち前頭葉Stirnlappen,頭頂葉Scheitellappen,後頭葉Hinterhamptlappenおよび側頭葉Schläfenlappenである.
嗅脳の後方部は嗅野Area olfactoriaである.その表面は平坦で,灰白色を呈し,血管によって貫かれる数多くの孔がある.その灰白質は背方はレンズ核と続いている.嗅野が存在する所の浅いへこみは外側大脳谷Vallecula cerebri lateralisと名づけられる.
嗅三角Trigonum olfactoriumは浅い1本の溝のみによって嗅野から分けられている.ここから嗅溝Sulcus olfactoriusという深い1本の溝が前頭葉に属して前方に4cm延びていて,嗅脳の最も前方の2部分,すなわち嗅索Tractus olfactoriusと嗅球Bulbus olfactoriusとがこの溝のなかにある(図409, 417, 420).嗅球は長さ8~10mm,幅3~4 mm,厚さ2~3 mmの膨らんだ部分で灰白色を呈する.ここから多数の嗅糸Fila olfactoriaが出て鼻腔の嗅部の粘膜に達する.
嗅索は3つの稜をもち,2本の白い髄質の条を示している.これが内側嗅条Stria olfactoria medialisと外側嗅条Stria olfactoria lateralisとである(図420).
内側嗅条は嗅三角の内側の稜に沿って嗅傍野Area adolfactoriaに達するが,外側嗅条は嗅三角の外側の稜に沿って外側大脳裂の入口に達し,そこでいわゆる島限Limen insulaeをなし,海馬傍回の前端部に達する.いま述べた内側と外側の嗅条のあいだにある中間嗅条Stria olfactoria intermediaは嗅野の実質内で見えなくなる.
[図432]脳,前額断面III 中間質を通って切断し,後方の切断面を前からみる.(9/10)
[図433]脳,前額断面IV 後交連のすぐ前を通って切断し,後方の切断面を前からみる.(9/10)
変異:(日本人の嗅球の大きさは成人では長さ10.42±0.05mm,幅男5.97±0.03 mm,女4.48±0.04 mm,高さ2.27±0.03mm,新生1見ではそれぞれ9.45±0.16 mm,4.20±0.10mm,2.00±0.05 mmである. (小川鼎三,細川宏:日本人の脳.104,1953))嗅脳は全部あるいは一部欠如していることがある.1929年までにそういうのが約13例記載された.その場合には,節板が小さくて,矢状方向に小さくなったトルコ鞍には小さい下垂体が入っており,また甲状腺も小さくて類宦官症のからだ付きが見られた(Mirsalis, Anat. Anz., 67. Bd.,1929).
島は1つの大きな隆起で,輪状溝Sulcus circularis(図415)という溝に取りまかれており,その最も突出した場所は島の極Inselpol(日本人脳20例(40側)の調査により,島極はF. O. L. 上F.O.M. の前方15 mm,かつその外側8mmにあり,島回の数7を示すもの14側,5を示すもの11側である.また島極に脳溝1をもつもの28側であった.(Shimada, K. : Beiträge zur Anatomie des Zentralnervensystems der Japaner. Folia Anatomica JAponica. Bd.12, 423~444,1934).)と名づけられている,前下方には嗅野に対する境として島限Limen insulaeとよばれる軽い高まりがある.
島は5~9本の島回Gyri insulae, Inselwindungenに分かれて,これらの回転は島極から扇形に広がっている.島短回Gyri breves insulaeという前方にある回転と後方の島長回Gyrus longus insulaeとが区別される(図415).
島を被って円くもり上つている大脳半球の部分は島の弁蓋Deckelとよばれる.その背側部は頭頂弁蓋Operculum parietaleといって最も強大であり,これは前頭葉の一部と頭頂葉の一部からなる.その次に広いのが側頭弁蓋Operculum temporhleであり,最も短いのは前頭弁蓋Operculum frontaleである.
a)大脳の各葉を分ける溝
大脳の大きな4つの葉Lobi cerebriを区切る4つの溝がある,すなわち外側大脳裂Fissura cerebri lateralis,中心溝Sulcus centralis,横後頭溝Sulcus occipitalis transversus,頭頂後頭溝Sulcus parietooccipitalisである.これらの溝が前頭葉Lobus frontalis, Stirnlappen,頭頂葉Lobus parietalis, Scheiteltappen,後頭葉Lobus occipitalis, Hinterhaupttappen,側頭葉Lobus temporalis, Schldfenlappenをたがいに分けている.
1. 外側大脳裂Fissura cerebri lateralis, シルヴィウス溝Sylvische Furche(図406, 409)
外側大脳裂は脳底にある横向きのへこみの外側大脳谷Vallecula cerebri lateralisの外側端に始まり,短い距離だけ外側上方に走り,次いで次の3枝に分れる:
a)後枝Ramus occipitalisが最も長くて,これはほとんど水平に走り,島の長さの1倍半ほど延びていて,その末端部は背方に曲る.b)上行枝Ramus ascendensは短い距離だけほとんど垂直に上行する.c)前枝Ramus frontalisは後枝と同じ向きであるが逆に前方に進む.上行枝と前枝とは下前頭回に切れこんでいる.
2. 中心溝Sulcus centralis(図406, 407)
中心溝は外套稜のおよそ中央から外側かつ前方に走り,外側大脳裂の後枝の前方部に向かっているが,これに完全に達するということはないものである.
3. 頭頂後頭溝Sulcus parieto-occipitalis(図407, 408)
頭頂後頭溝は大脳半球の内側面の後上部にあり,半球の背側面にも(多くは1~2cmだけ)及んでいる.この溝の内側部は腹方で鳥距溝の前端と合している.
4. 横後頭溝Sulcus occipitalis transversus(図406)
この溝は多くのばあい頭頂間溝Sulcus interparietalisという頭頂葉の溝とつながっていて,大脳半球の凸面で横の方向に短い距離だけ延びているが,外套稜には及んでいない.
b)大脳の各葉に属する溝
1. 前頭葉の溝
前頭葉は中心溝の前方で,外側大脳裂の前方と上方にある大脳半球の広い領域を占めている(図406).前頭葉には凸を画く背外側面dorsolaterale Flächeと,わずかにへこんだ眼窩面orbitale Flächeと,平らな内側面mediale Flächeとがある.前頭葉には次の諸溝がある:すなわち
a. 中心前溝Sulcus praecentralis.これは頭頂弁蓋の尖端の近くに始まり,中心溝にほとんど平行して走るが,外套稜には達していない.中心前溝はしばしば2片に分れている.
β. 上前頭溝Sulcus frontalis superior.これは中心前溝から前方に走っている.
γ. 下前頭溝Sulcus frontalis inferior.これは中心前溝から弓状に前下方に走る.
δ. ε. 外側大脳裂の上行枝Ramus ascendensと前枝Ramus frontalis.
ζ. 嗅溝Sulcus olfactorius.これは半球間裂の近くで,これに平行して走る.嗅溝のなかには嗅索がある.
η. 眼窩溝Sulci orbitalesは眼窩面にある嗅溝以外の溝である.
内側面には,(図408)
θ. 脳梁溝Sulcus corporis callosi,これは脳梁の外側に沿っている.
ι. 帯状溝Sulcus cinguli;これは脳梁溝に平行して走る.帯状溝の前方部は前頭下部Pars subfrontalisという名前で,それより後方の上行して外套稜に達する縁部Pars marginalisから区別され,縁部は内側面で前頭葉と頭頂葉とを分けている(図408).
κ. λ. 後嗅傍溝Sulcus adolfactorius posteriorと前嗅傍溝Sulcus adolfactorius anteriorとは脳梁吻Rostrum corporis callosiの下方にある前頭葉の部分に属している.これら両溝は短くて,たがいに平行し,ほとんど垂直に走っている(図408).
2. 頭頂葉の溝
頭頂葉の境界(図406, 408)は次のものである:すなわち前方は中心溝および帯状溝の縁部,後方は横後頭溝および頭頂後頭溝,下方は外側大脳裂の後枝およびシルヴィウス溝(外側大脳裂)の上行部の初まりから錐体圧痕に引いた想定線である.
頭頂葉には背側面と内側面とがある.
a. 中心後溝Sulcus postcentralisは中心溝とおよそ平行して走る.中心後溝は中心溝の下部のうしろで始まり,外套稜までは達しない.しばしばこの溝が2片に分れている.
β. 頭頂間溝Sulcus interparietalisは頭頂葉の背側面のほず中央を内側かつ背方に後頭葉へと進み,後頭葉に達すると非常にしばしば横後頭溝とつながっているが,すでに頭頂後頭溝の背側端の前で終わっていることもある.
γ. 外側大脳裂の後枝Ramus occipitalis fissurae cerebri lateralisの終末部.
δ. 上側頭溝Sulcus temporalis superiorの終末部.
以下は頭頂葉の内側面にある溝(図408).
ε. 脳梁溝Sulcus corporis callosi.これは脳梁に平行して走る.
ζ. 頭頂下溝Sulcus subparietalisは外套稜よりも脳梁溝にいっそう近く存在し,後者に平行して走る.
3. 後頭葉の溝
後頭葉は頭頂葉に対する境がどこでもはっきりしているわけではない.後頭葉は鈍い先端をもつ三角錐の形である.
その内側面(図408)の溝としてはただ次のものがある:すなわち
α. 鳥距溝Sulcus calcarinus.これは脳梁膨大のうしろに始まり,軽く弓なりに曲がって後頭葉の先端(後頭極Polus occipitalis)の近くにまで達し,ここで終るかあるいは内側面にあるほとんど垂直な方向の1つの溝に続いている.鳥距溝は鋭角をなして頭頂後頭溝の下部と合する.
脳底面(図425)には次の溝がある:すなわち
β. 側副溝Sulcus collateralis.この溝は側頭葉にも属している.側副溝は後頭葉の先端から多少とも離れたところで始まり,側頭葉の先端に向かって走るが,その先端までは達しない.この溝はしばしば後頭の部分と側頭の部分に分れている.後頭葉に属する側副溝は側頭葉の第3の溝(下側頭溝Sulcus temporalis inferior)と合していることがある.
γ. 上後頭溝Sulci occipitales superiores.
δ. 外側後頭溝Sulci occipitales laterales.
4. 側頭葉の溝
側頭葉の境界としては外側大脳裂と海馬溝のほかに頭頂葉の境界のところですでに述べた外側大脳裂の後枝から錐体圧痕にいたる想定線である.側頭葉の底面ではこの葉と後頭葉とのあいだの境を示す溝は存在しない.側頭葉には次の溝がある:すなわち
α. 横側頭溝Sulci temporales transversi,側頭葉の背側面にみられる1~4本の溝であって,その後半部に属する溝が最も深い.
β. γ. δ. 上側頭溝Sulcus temporalis superior,中側頭溝Sulcus temporalis mediusおよび下側頭溝Sulcus temporalis inferior(図406, 409, 425).これらのうちで前2者は側頭葉の外側面に,最後のものはその底面にある.
上側頭溝は外側大脳裂の後枝にほとんど平行して走り,その後端に1本の上行枝があるという点でも外側大脳裂に似ている.中側頭溝は外側の稜に平行して走り,多くのばあいいくつかの部分に分れていて,これがひと続きの溝をなしていることは比較的まれである.
ε. 側副溝Sulcus collateralis(図425)は側頭葉の前端からいくらか離れたところで始まり,後頭葉の後端に向かってすすむ.
ζ. 海馬溝Sulcus hippocampi(図425),この溝は脳梁溝の続きであって,はなはだかくれた位置にあり,歯状回と海馬傍回とを分けている.
a)前頭葉の回転
1. 中心前回Gyrus praecentralis, vordere Zentralwindung,中心前回は中心溝と中心前溝とのあいだにあって,外側大脳裂から半球の内側面にまで達している.
2. 上前頭回Gyrus frontalis superior,これは上前頭溝と帯状溝とのあいだにある.中心前溝がその後方の境界をなしている.
3. 中前頭回Gyrus frontalis medius,これは上前頭溝と下前頭溝とのあいだにあり,前頭葉の回転全部のなかで最も幅が広く,しばしば上部と下部とに分れている.
4. 下前頭回Gyrus frontalis inferior,これは下前頭溝と外側大脳裂とのあいだにある.その後方の境は中心前溝である.外側大脳裂の前枝と上行枝とによってこの回転は3つの部分に分けられ,これを前からうしろに,眼窩部Pars orbitalis,三角部Pars triangularis,弁蓋部Pars opercularisと呼ぶ.
5. 眼窩回Gyri orbitales,これは不規則に走る回転で,眼窩溝と嗅溝とによって境されている.
6. 直回Gyrus rectusは嗅溝と半球間裂とのあいだにある.
内側面(図408)には直回と上前頭回のほかに次の諸回転がある.
7. 梁下回Gyrus subcallosusは脳梁吻に平行して走っており,前方は後嗅勇溝によって境され,嗅野にはじまるもので,脳梁の内側縦条に移行している.
8. 嗅傍野Area adolfactoriaは前と後の両嗅第溝のあいだにある.
9. 帯状回Gyrus cinguliは後に述べる脳弓回Gyrus fornicatusの一部である.帯状回は脳梁溝と帯状溝とのあいだにある.
10. 中心傍小葉Lobulus paracentralisはその大部分が前頭葉に属している.この小葉は中心前回と中心後回とのあいだをつなぐものであり,下方と後方は帯状溝の縁部によって境されている.
透明中隔Septum pellucidum(図408, 414, 428, 430)
透明中隔は正中線のところにあって,脳梁幹の前端部と脳梁吻と前交連と両側の脳弓柱とのあいだに張られている.左右の側脳室の前頭角をたがいに隔てていて,薄い2枚の板すなわち透明中隔板Laminae septi pellucidiよりなり,この2枚の板のあいだに多くのばあい透明中隔腔Cavum septi pellucidiという大きさのいろいろと違う1つの空所がはさまれているが,この腔所はしばしば存在しないことがある.
b)頭頂葉の回転
1. 中心後回Gyrus postcentralis, hintere Zentralwindung,これは中心前回に平行して走り,中心溝によってこれから隔てられている.
2. 上頭頂小葉Lobulus parietalis superiorは頭頂間溝によって下頭頂小葉から分かれている.その前方の境は帯状溝の縁部であり,後方の境は頭頂後頭溝である.
3. 下頭頂小葉Lobulus parietalis inferiorは頭頂間溝の下方にあり,回旋回Gyrus circumflexusと角回Gyrus angularisという2つの回転よりなる.前者は外側大脳裂の後枝の上端を囲んでおり,後者は上側頭溝の上端を囲んでいる.
頭頂葉の内側面(図408)には次の諸回転がある:
4. 楔前部Praecuneusは前方は帯状溝の縁部により,後方は頭頂後頭溝により,下方は頭頂下溝により境されている.
5. 帯状回Gyrus cinguli.これは頭頂葉の範囲では脳梁溝と頭頂下溝とのあいだにある.
[図434]脳,水平断面I 右側は視床の前結節を通り,左側は(それよりやや深く)室間孔を通る断面.切断された下の断面を上からみる.(4/5)
[図435]左の大脳半球の歯状回と海馬傍回鈎小帯(引取線の説明のうちUncusbändchenは鈎小帯を意味し,後述のジアコミニ縁帯と同じものである.(小川鼎三))
[図436]脳,水平断面II 右側は室間孔を通り(しかし図434の左側よりもいくらか深い),左側は前と後の両交連の中央部を通る切断面.(4/5)
[図437]左大脳半球の内側面.(1/2) 脳弓および海馬采は青,梁下回・内外の両縦条・小帯回・歯状回は黄で示す.(引取線の説明のうちUncusbändchenは鈎小帯を意味し,後述のジアコミニ縁帯と同じものである.(小川鼎三))
c)後頭葉の回転
1. 上後頭回Gyri occipitales superioresは同名の溝によって境される.
2. 外側後頭回Gyri occipitales lateralesは同名の溝によって境されている.
後頭葉の内側面にあるもの(図408).
3. 楔部Cuneus,これは頭頂後頭溝と鳥距溝とのあいだにある.
後頭葉の下面にあるもの(図425).
4. 内側後頭側頭回Gyrus occipitotemporalis medialis.これは一部は後頭葉の内側面に,一部は側頭葉に属していて,鳥距溝と側副溝とのあいだにあり,後頭葉の先端(後頭極)に達し,また幅の狭い1つのつながりによって脳弓回峡と続いている.
d)側頭葉の回転
1. 上側頭回Gyrus temporalis superior(図406).これは側頭葉の先端(側頭極)から外側大脳裂の後枝の終末部のところまで延び,後者の場所では下頭頂小葉の回旋回と角回に続いている.
上側頭回の上面は横側頭回Gyri temporales transversi(ヘツシュル横回Heschlsche Querwindungen)があり,その前半までは弱く刻まれているにすぎないが,後半では3~4本のはっきりした回転をなしていて,そのなかでも前方のものは必ず存在している.
2. 中側頭回Gyrus temporalis medius(図406).これは上側頭溝と,多くのばあいいくつかの部分に切れている中側頭溝とのあいだにあって,下頭頂小葉の後部に移行し,あるいは後頭葉にもつづいている.
3. 下側頭回Gyrus temporalis inferior(図406, 409).中側頭溝と下側頭溝とのあいだにあって,側頭葉の外側稜を作り,前方は中側頭回と続き,後部は後頭葉に向かって上行している.
4. 外側後頭側頭回Gyrus occipitotemporalis lateralis(図409, 425).側副溝と下側頭溝とによって境される.それゆえ側頭葉の底面に属している.
5. 海馬傍回Gyrus hippocampi(図425)は側副溝と海馬溝とのあいだにある.海馬傍回は脳弓回Gyrus fornicatusの下部であり,脳弓回の上部は帯状回である.脳弓回の上下の両部(海馬傍回と帯状回)の境をなす部分は脳弓回峡Isthmus gyri fornicatiであり,この部分は脳梁膨大のところにあって,内側後頭側頭回の前端とつながっている.海馬傍回は前方は逆の方向に曲つた短い回転,すなわち海馬傍回鈎Uncus gyri hippocampi, Hakenとして終り,この鈎に歯状回および海馬采Fimbria hippocampiの前端が接して終る.海馬傍回の表面は灰白質だけでなくて,網状に広がった白質の層で被われている.これが白網様質Substantia reticularis albaである.
脳梁の回転Balkenwindungen(アンドレア・レチウス回Gyri Andreae Retzii)は脳弓回峡のところで歯状回の後端に密接して存在し,この回転は全例の約1/4において欠如しており,その数も非常にまちまちであり(1~7),形も大いさもすこぶる違っている.日本人では0~8個の回転が見られ,これが両側とも欠如しているのは12%,大脳半球の数でいうと25%に欠如しているという(Watanabe, Folia psych. et neurol. JApon.,1. Bd.,1935).
6. 歯状回Gyrus dentatus(図425, 435, 437).特異な構造を示すこの痕跡的な回転は海馬采と海馬傍回とのあいだにあって,その自由縁に切れ込みをたくさんにもっている幅の狭い灰白質の板である.
その背側端は脳梁膨大に接していて刻み目をもたず,小帯回Gyrus fasciolarisと呼ばれる.小帯回には脳梁の縦条Striae longitudinalesがつづいている.
歯状回が鈎に接して終るところから鈎小帯(ジアコミニ縁帯)Uncus-Bändchen(Giacomini)という帯状の薄い条がはじまり,鈎の外側面の上を越えてその内側面に続き,ここで厚さがますます減じて見えなくなる(図435).
終脳の内部の表面,あるいは脳室面というのは大脳半球の内部に含まれる腔所,すなわちすでに述べたことのある側脳室Pars lateralis ventriculi telencephali, Seitenventrikelの諸壁のことである.
[図438]金属を用いて作つた脳室系の鋳型標本 左側からみる.(9/10)
胎生期の終脳内の腔所である終脳室Ventriculus telencephaliは正中にあって対をなさない終脳室不対部Pars impar ventriculi telencephaliという部分と左右の側脳室Pars lateralis ventriculi telencephaliとよりなる.終脳室不対部は成人の脳においては,両側の室間孔のあいだにある第三脳室の前方部であり,この関係からまた第三脳室終脳部Pars telencephalica ventriculi tertiiとも呼ばれるが,他方それより後方のいっそう大きな部分は第三脳室間脳部Pars diencephalica ventriculi tertiiである.
大脳半球の4葉のそれぞれに側脳室の一部が相当している.側脳室の前頭角Cornu frontale, Vorderhornは前頭葉のなかにあり,頭頂部Pars parietalis(中心部zentraler Teil)は頭頂葉のなかに,後頭角Cornu occipitale, Hinterhornは後頭葉のなかに,側頭部Pars temporalis(下角Unterhorn)(原著および慣用に従い側脳室の側頭部を簡単に下角とよぶことにする.(小川鼎三))は側頭葉のなかにある.
側脳室はただ1つの場所すなわち室間孔Foramen interventriculareのほかはどこも閉じている.
図438は金属を用いて作った脳室の鋳型標本を画いたものであるが,この図では第三脳室は短い柄,つまり室間孔にあたる部分によって側脳室とつながっている.第三脳室は後方に向かっては中脳水道に続き,中脳水道は第四脳室に続いていて,後者は側方への膨出部,すなわち左右の外側陥凹Recessus lateralesをもっている.側脳室においては前頭角が他の部分にくらべて太い前方の膨出部であり,側頭部は下方へ広がった大きい突出部をなし,後頭角は小さい後方への突出部をなしている.室間孔から側頭部と後頭角の結合するところまで,つまり側脳室の中央を占める部分が頭頂部Pars parietalisである.
室間孔から側脳室の前端まで達する前頭角は長さ約30mmであり,側脳室の後頭角は長さ12~20mm,側頭部は長さ30~40mm,頭頂部は長さ40mmである.前頭角の前端と後頭角の後端とは直線径で75~80mmたがいに離れている.左右の側脳室の背方部は後方に向かって相遠ざかるが,背方部は同時にS字形の弯曲を示し,その前方部は凸を内側に向け,後方部は凸を外側に向けている.(日本人における側脳室の大きさの平均値は,これを矢状面,前額面および水平面上に投影して計測した結果は次のごとくである.また鋳型模型による計測[( )内]も併記する.全長82.7mm(87. 6mm),全高49.5mm,全幅37.1mm,容積10.155ccm,前頭部の長さ24.8 mm(31.0 mm),頭頂部の長さ30.9 mm(33.4 mm),移行部後頭部の長さ27. 6mm(29.0mm),側頭部の長さ25.2mm(38.7mm),移行部の高さ29.2mm(37.8mm)である.(Shimada K. :Beitrlige zur Anatomie des Zentralnervensystems der Japaner. VI. Folia Anatomica JAponica, Bd,9, 429~486,1931))
a)前頭角Cornu frontale(図412, 414, 416, 418, 428, 430, 431)
1. 尾状核Nucleus caudatus, Schwezfflern.これは側脳室の底と外側壁の一部をなしていて,前頭角にある太い尾状核頭Caput nuclei caudati, Kopfと後方に向かってすすみ,さらに延長して下角に達する細い尾状核尾Cauda nuclei caudati, Schweifとよりなる.下角では尾状核尾はその天井の一部をなし,そして下角の前端で扁桃核に移行する.
尾状核頭は最も幅が広いところでは2cmあり,前方は円くなって終る.その凸面は内側に向かっている.弯曲して下角に入るところでは尾状核尾は約3mmの幅があり,その幅は下前方にすすむにつれて減ずる.
2. 脳梁幹Truncus corporis callosiは前頭角の天井をなしている.脳梁膝Genu corporis callosiは側脳室の前壁をなし,かつ下壁の一部を形成する(図410).
3. 透明中隔Septum pellucidum.これは側脳室の前頭角の内側壁および頭頂部の前方部の内側壁をなしている(図414, 416, 418, 428, 430).
b)頭頂部pars parietalis(図412, 414, 428, 432, 433)
頭頂部は丈が低くて,幅は15mmにまで達する裂け目であって,その天井は脳梁によって作られており,この天井が各側とも非常に鋭い角度をなして側脳室の底と合している(図432, 433).その底は外側部では尾状核によって形成されており,その内側につづいて順次に分界条Stria terminalis,視床を被う付着板Lamina affixa,側脳室脈絡叢Plexus chorioideus partis lateralis ventriculi telencephali,脳梁からはなれている脳弓(弓隆)Fornixの自由部の背側面がある.
1. 分界条Stria terminalis.分界条は視床と尾状核とのあいだを走っている幅の狭いすじで,このすじに沿って脳室面のすぐ下を走っている視床線条体静脈V. thalamostriataのために分界条はしばしば青味ないし褐色をおびてみえる(図412, 414, 428).
2. 付着板Lamina affixa(図428)は薄い脳物質の1層であって,まず視床線条体静脈を被い,ついでこれに隣接する視床の外側部の上に薄い板として続いている.さらに脈絡叢の上皮に移行するのである.付着板の幅は前からうしろに向かってまず幅を増し,ついでふたたび滅じ,その最大の幅は5~6mmである.脈絡叢を取り去ると付着板の内側縁がはっきりみえるようになる.この内側縁は視床脈絡ヒモTaenia chorioidea thalamiと呼ばれる(図428).
視床脈絡ヒモは尾状核尾のそばに沿って下角の前端にまでつづいている.脈絡ヒモは下角では分界条に密接している.下角の前端において脈絡ヒモが曲がって采ヒモTaenia fimbriaeに移行し,次いでこれが脳弓ヒモTaenia fornicisになる.両側の脳弓ヒモはけっきょく室間孔の上で正中線で合している.
3. 側脳室脈絡叢Plexus chorioideus partis lateralis ventriculi telencephali(378頁).
4. 脳弓(弓隆)Fornix(371頁参照).
c)後頭角Cornu occipitale(図412, 414, 416, 423, 434)
後頭角は外側に凸,内側に凹の1つの裂け目であって,その先端は後頭極に向かっている.横断面ではほず三角形をしている.
その上壁は脳梁放線Radiatio corporis callosiにより,下壁は後頭葉の髄質によって形成される.またその内側壁は鳥距Calcar avis(図412, 423)という縦走する高まりをもち,この高まりは鳥距溝Sulcus calcarinus(図434)が深く入りこむことによってできたものである.
後頭角の底は多くのばあい丸味をおびて高まっている.もっともその高まりの程度は個体により強弱の差がある.
d)側頭部(下角)Pars temporalis(図423, 433, 434)
下角は三角形の横断面を示していて,海馬傍回鈎の前端より12mm離れた所まで達する.下角の底は後頭角の底の下前方への続きであり,外側には多少の差はあるがかなりの強さの縦走する1つの高まり,すなわち側副隆起Eminentia collateralisがあり,この隆起は後頭角との境のところで側副三角Trigonum collateraleとして始まり,側副溝が深く入りこむことによってできたものである.下角の天井は後頭角の天井と同じように主に脳梁放線によって作られている.両者のこの天井は特に壁板Tapetum と呼ばれ,ここの放線じしんは脳梁の壁板放線Tapetumstrahlungと呼ばれる.しかしなお下角の天井には内側部に尾状核尾があり,この核の内側面に沿って延びている分界条と脈絡ヒモとがある.
下角の下壁と内側壁には海馬足Pes hippocampi(図423, 440)が長さ50mmの半月形に弯曲した高まりとして存在している.海馬足は脳梁膨大の高さで始まり,外側にその凸面を向けつつ前方にのびる.その前端部は幅が広くなっていて,ここに相並んでいる高まりがあり,これは海馬指Digitationes hippocampi, Zehen と呼ばれて,その数は変化に富むのである.
しかしまた下角の内側壁には海馬足があるのみでなく,内側壁の一部は脈絡叢によって形成されているのである.
大脳半球では灰白質が皮質を成しているほかに,なおこれとは別に灰白質の塊りが終脳の内部にあって,これは終脳の灰白核graue Kerne oder Ganglien des Endhirnesと呼ばれるのである.
尾状核は頭の大きい棍棒の形をしていて,全く側脳室の経過に伴なっており,かつそれと同じ幅をもっている.これに尾状核頭Caput nuclei caudatiと尾状核尾Cauda nuclei caudatiとを区別する.
尾状核の前部が最も太い.そして尾の先端に向かってこの核はだんだんとその大いさを減ずる.その背側面の内側稜が分界条にぶつかつておりその外側稜は側脳室の外側縁に達し,なお側脳室の中央部では鈎形にのびて側脳室の天井の外側部に達している.尾状核の外側面は内包に向けられ,尾の範囲ではその外側面が凸であるが,頭の範囲ではその外側面が逆に軽くへこんでいる.ここでは同時にその腹側縁が被殻Putamenのこれに対する腹側縁と直接に実質的なつながりを示している.この大きな腹方のつながりのほかにいっそう背方のところでは両核のあいだをつなぐ灰白質の条(結合条Verbindungsstreifen)が多数ある.これらの条の存在が両核およびそれらを結びつける部分に対して特に線条体Corpus striatumという名のあたえられたもとをなしている.
レンズ核はコーヒーの実の形をしていて,尾状核の外側にあり,この核とは広い隙間によって隔てられ,この隙間はレンズ核内包Capsula interna nuclei lentiformisという白質によって占められている.前下方で尾状核とつながり,また別に上述の結合条Verbindungsstreifenによって両核がつながっている.
レンズ核の内側面は上方かつ内側に向かって傾いた位置を占めて,[レンズ核]内包に接している.またその外側面はだいたい垂直であるが軽く円蓋状にふくらみ,島の皮質に平行しており,[レンズ核]外包に接している.
その腹方面は水平であって,レンズ核係蹄に接し,その中央部では嗅野の灰白質と続いている.それゆえレンズ核の横断面は楔形をした三角形であり,この楔の刃は大脳脚に向かっている.
新鮮な標本においては色調の違いによって横の方向に相ならんでいる3つの部分,すなわちレンズ核の節Gliederが認められる.外節äußeres Gliedは最も長くて,他の2つよりいっそう前方および後方に延びている.外節は赤褐色を呈して,細い白いすじによって貫かれている.これを被殻Putamenと呼ぶ.内側にある両節は色が淡く,灰黄色である.この両節を合して淡蒼部(淡蒼球)Pars palhdaという.淡蒼部は内包を貫く結合条によって黒核(黒質)とつづいている.レンズ核の腹方面,すなわちその底の前方部は前交連と交叉し,かつこのために1つの溝を生じている.
この核は[レンズ核]外包のなかにあって,1~2mmの厚さをもつ狭い灰白質の1枚の板である.この板は腹方に向かって2倍にまで厚さを増し,ここで嗅野および扁桃核と,また外側嗅条とも続いている.その内側面はなめらかであり,外側面はところどころ隆起線のように突出している.前障は島皮質の一部が分れたものである.
側頭葉の先端(側頭極)の近くで,下角の前端の前にあって,海馬足の前方にある1つの高まりとして下角の腔所に向かって突出し,また大脳半球の白質に向かっても突出している.この核は海馬傍回の皮質と続き,嗅野および前障とも続いている.
白質すなわち髄質部は皮質と上述の諸核とのあいだおよび脳室上衣とのあいだを占めて強大な線維団をなしている.
髄質部が最も幅広くみえるのは脳梁の背側面を通る水平面である.この断面では卵円形の大きな白い領域,すなわち半卵円中心Centrum semiovale(図411)がみられる.その外面には豊富な突出部があり,これは髄質稜Markleistenとして皮質の高まりの裏がわのへこみにはいりこんでいる.また半卵円中心は内側縁では脳梁の広がりに一致してその線維団に直接に移行している.髄質の全体を構成するものには線維の流れぐあいのちがいによって3種が区別される:それは,1. 連合神経路,2. 交連神経路,3. 投射神経路すなわち脳脚系Hirnschenkelsystemeである.これらはみな中枢神経系の伝導路Tractus systematis nervorum centralisに属する.
連合神経路はいろいろな配置をしている大小種々の線維束であって,同一の大脳半球のなかで遠くあるいは近くへだたった灰白質の領域のあいだを結合している.
A. 大脳皮質の異なる部分のあいだの結合.
a) 短い結合:
α. 弓状線維Fibrae arcuatae.これは1つの回転から出て弓なりに曲がって隣接する別の回転に達している;
β. 外切線線維層(微細構造の項,411, 412頁参照);
γ. ジェンナリ条(微細構造の項,411, 412, 415頁参照);
δ. 放線上および放線間網工super-und interradiäres Flechtzverk(微細構造の項,411頁参照).
b)比較的長い結合,大脳弓状線維Fibrae arcuatae cerebri:
α. 帯状束Cingulum, Zwinge.これは矢状方向に走る線維束であって,帯状回の髄質稜のなかにあり,脳梁に平行して走り,その上面に密接していて,海馬傍回の経過に従ってすすみ,鈎にまで達している.これは絶えず線維を近くの回転にあたえ,かつ別の線維を新たに受け入れる.
β. 前頭後頭束Fasciculus frontooccipitalis(上縦束oberes Längsbündel).これは前頭葉(特にその中前頭回)と後頭葉とを結合している.
梁下束Fasciculus subcallosus(Onfurowitsch-Kaufnann)は,その大部分の線維が脳梁のすぐ下にあり,後方では側脳室の壁板の一部をなしている.
γ. 側頭後頭束Fasciculus temporooccipitalis, (下縦束unteres Lltlngsbtindel).後頭葉と側頭葉との結合である.
δ. (大脳の)鈎状束Fasciculus uncinatus(cerebri), Hakenbündel des Großhirns.これは下前頭回から島限を越えて海馬傍回にいたり,また側頭葉のこれに続く部分に達する.
ε. 長い脳弓(長い弓隆)Fornix longus.その線維は脳弓回から来て,嗅傍野に終わっている.
[図439]人の大脳半球の弓状線維と長い連合神経路.(1/4)
B. 大脳核相互のあいだおよびこれと大脳皮質との結合.
α. レンズ核と尾状核との結合;
β. これら2つの核およびその他の大脳核と大脳皮質との結合.
連合神経路が1側の大脳半球内にのみとどまる結合をなすのに反して交連神経路は両側の大脳半球のあいだを結合している.
終脳には2つの大きい交連神経路がある.それは脳梁と前交連とである.
脳梁には露出している中央の部分と側方の放線部,つまり脳梁Corpus callosumじしんと脳梁放線Radiatio corporis callosiとが区別される.
a)脳梁は両側の大脳半球の背方縁を左右に開くと,半球間裂の奥まつたところにみられる長さ7~9cmのつよく発達した髄質の橋であって,これは大脳半球の前端からは3cm, 後端からは5~6cm離れており,外套稜からの隔たりもまた3cmである.脳梁の背方面は各側ともその上を被っている大脳半球の内側壁からは脳梁溝によって境されている.この溝は深さ5mmまで入りこんでいる.そこで外方から見ることのできる脳梁の幅は15mmに達するのである.この面は灰白質の薄い1層によって被われている.これを脳梁の灰白層Stratum griseumという.正中線の近くにはその表面に2本の縦走する白いすじがあって,これは前とうしろではたがいにいくらかはなれている.これが内側縦条Striae longitudinales medialesである(図411).別の2本の縦走するすじ,すなわち外側縦条Striae longitudinales lateralesは帯状回に被われていて,この回転を取り除くと見えるのである.
これらの縦条はもともと1つの退化的な大脳回ein rudimentärer Gyrusに属するもので,この回転はうしろは小帯回および歯状回に続き,またのちの発達段階では帯状束Cingulumに属するのである.また脳梁には横走する多数の溝があって,これにより横条Striae transversaeが境されている.
[図440]脳弓Fornix,海馬足Pes hippocampiおよび前交連Commissura rostralis(9/10)
[図441]脳梁放線,右の大脳半球 線維束分離標本.(2/3)
脳梁の下面は,その上面とは約1cm離れ,その両端部を除いてはだいたい上面と平行している.下面はその前方部では中央のところで透明中隔と癒着し,この中隔よりうしろでは脳弓体および脳弓脚と合している.透明中隔の側方では脳梁が側脳室の前頭角と頭頂部の屋根をなし,上衣に被われている.
脳梁の中央部は脳梁幹Truncus corporis callosi, Balkenstammといい, またその前方部は強く前下方に弯曲して(図410),脳梁膝Genu corporis callosi, Balkenknieをなす.脳梁膝に続いて脳梁吻Rostrum corporis callosi, Balkenschnabelがあり,その薄い末端部が第三脳室終板にまで延びている.透明中隔の前縁と下縁とは正中線に沿って脳梁の膝と吻とに固着している.脳梁膝の前面には縦条の続きがみえ,これらのすじは脳梁吻の表てをたがいにはなれながらさらに進み,各側とも梁下回Gyrus subcallosusとよばれる小さい高まりとなって嗅野に達している(図408, 437).
脳梁の後端は厚くなり,脳梁膨大Splenium corporis callosi, Balkenwulstを作る.しかし,ここをよく注意して見ると,脳梁の前端といくらか似た点がある(図441).後端のところでも脳梁はまるく曲がって,その曲つた部分が下面に密接している.こうして2重になっているために厚い脳梁の後端部は厚さが1.5~1.8cmあり,自然の位置では松果体と四丘体とを上から被っているのである(図410).
前に述べた細い縦条と脳室の上衣を考えに入れなければ,脳梁は本質的には横走線維だけからなっており,この線維群は大脳半球の内側壁に入りこんで,そこで脳梁放線となる.これらの横走線維群は相合して多数の前額の方向におかれた葉板(その厚さ1mm)をなしている.脳梁の膝と膨大ではそこに所属する葉板が放射状に傾いている.
b)脳梁放線Radiatio corporis callosi, Balkenstrahlungには,脳梁幹Truncus corporis callosiに属する中央部と脳梁膝Genu corporis callosiに属する前方部と脳梁膨大Splenium corporis callosiに属する後方部とが区別される.脳梁幹Balkenkörperの放線は前頭葉の後部に(前頭部Pars frontalis),また頭頂葉の全体に(頭頂部pars parietalis)分布する.脳梁膝からは前頭葉の前方の大部分に分布する(図441, 442).
脳梁幹の後部と脳梁膨大とからは後頭葉と側頭葉に分布するのであって,これがそれぞれ側頭部Pars temporalisと後頭部Pars occipitalisである.脳梁膨大に境を接する脳梁幹の部分からの線維団は外側に凸の弓を画いて外側かつ下方にすすみ,側脳室の後頭角と下角との背方壁のなかで,上衣の下に広がった1枚の板となって走り,これは壁板Tapetumと呼ばれる.
[図442]脳梁放線Radiatio corporis callosi(模型図).
1. 前頭部Pars frontalis;2. 後頭部Pars occipitalis;3. 大脳半球の皮質;4と5. 半球間裂.
壁板は側頭葉にゆく線維と後頭葉の下部にいたる線維とを含む.脳梁膨大の線維は特に後頭葉の後部と背方部とに達し,そのうち後部に向うものは脳梁膨大の下方に曲つた部分の線維束であって,そこが脳梁の最後部をなしている.
脳梁は部分的にあるいは完全に欠如していることがある.(日本人において脳梁欠損は3例が報告されている.その3例とも半球内側面で脳溝の放線状配列が著しかつた.(北里勇三:無症状に経過せる成人胼胝体欠損の一例.長崎医学会雑誌.17巻, 2261~2277,1939 ;. 藤原正明:胼胝体完全欠損例.解剖学雑誌. 21巻, 294~296,1943;唐笠正二:大脳勝賦体の完全欠損例.日本病理学会会誌. 31巻,103~107,1941).)これまでにそのような例が約100例も記載されている.その大多数のものは同時にその他の脳の重要な奇形を伴なっていた.Hultkrantz(Upsala Läkareför. förhand. Nyföljd., 26. Bd.,1921)がしらべた例は,脳梁が欠けていても脳の機能の目立った障害がないことがありうることを示している.脳梁の発育不全の1例をH. v. Hayek(Virchows Archiv, 273. Bd.,1929)が記載している.
前交連は脳梁の補足をなして,第三脳室の前壁にあり,両側の脳弓柱のあいだで短くて白い横走の梁として見える(図428, 431).脳の正中断面では,前交連は楕円形の輪郭(5:4mm)をもっている(図410).
その中央部は側方では前方に軽く凸をなす弓状部につづき,この弓状部はそのうしろにある視索の走向にほとんど平行して走っている.
前交連は嗅野の内部およびレンズ核の底(レンズ核はこのもののために1つの溝を生じている)において,弓なりに曲がって外側方,後方,および下方に走って,その諸部は脳梁放線が分布していない大脳皮質の諸領域に達している.つまり側頭葉の大きな部分と後頭葉の底部と嗅葉とである.嗅葉に分布する前交連の線維は人では貧弱なものに過ぎないが, これが左右嗅索の根部をたがいに結合している.それゆえ前交連の前部Pars anteriorと後部Pars posteriorとが区別される(図440).
[図443]放線冠の線維像(線維束分離標本) (2/3)
投射神経路は一部は遠皮質性corticofugal,一部は求皮質性corticopetalの結合であって,これは両側の大脳半球の灰白質をいっそう下方にある脳の諸部および脊髄と結合させている.
大脳脚の線維群は視床の腹方面に接して尾状核に被われて終脳に入る.それは3つの大きな核(視床,尾状核,レンズ核)のあいだにあって,ここは[レンズ核]内包Capsula interna nuclei lentiformis, innere Kapselと呼ばれる.この線維団は内包をへて背外側方に走り半卵円中心の髄質団のなかに入りこみ,その一部を構成している.大脳脚が大脳皮質の全領域に広がるところを放線冠Corona radiata, Stabkranzと呼ぶ(図443).放線冠には前頭部Pars frontalis,頭頂部Pars parietalis,側頭部Pars temporalis,後頭部Pars occipitalisが区別される.内包の下部では大脳脚の線維群が密集して,しかもそれがなお灰白質のすじに貫かれており,このすじは黒核とレンズ核淡蒼部(淡蒼球)とを結合するものである.
しかしこれらの線維団は次第に横の方向に平たい多数の葉板Blätterに分れて,これらの葉板が上行するとともにますます明瞭に離れて,そのあいだには尾状核と被殻とを結びつける灰白質の部分がはさまれている.またこれらは尾状核の側縁を越えたところでやはり前額面にのびている脳梁放線の葉板と交叉する.
この放線部を側方からみると,葉板の稜あるいは幅の狭い側面が棒のように見えるのでStabkranz(棒のならんだ冠の意)の名がある.
内包の線維団は尾状核の全長にわたってその外側縁から出ている.
内包には前脚Crus frontale capsulae internaeと後脚Crus occipitale capsulae internaeとが区別される.前者は尾状核頭とレンズ核とのあいだにあり,後者は視床とレンズ核とのあいだにある.両者は鈍い角,すなわち内包膝Genu capsulae internae, Knie der inneren Kapselをなして合し,内包膝は分界条の前端のところに一致している(図434, 436).
放線冠のなかを走る投射線維はその長さによって短い神経路と長い神経路とに区別される.
[図444]視床の放線冠の一部を示す.
H 大脳半球の皮質;Th 視床;V 前視床脚;o 上視床脚, h 後視床脚(視放線に属する部分),u 下視床脚.
大脳皮質から視床・線条体・内外の両膝状体・赤核・乳頭体に達する線維路である.
1. 視床放線Thalamusstrahlungen(視床の放線冠Stabkranz des Thalamus),すなわち皮質視床路Tractus corticothalamiciと視床皮質路Tractus thalamocorticalesは大脳皮質の諸部と視床とのあいだを連ねる線維群である.これに4つの部分,つまり視床脚Thalamusstieleを区別する,すなわち前視床脚vorderer Thalamusstielは前頭葉と視床の前端とのあいだ,上視床脚oberer Thalamusstielは中心前,後両回ならびにこれに近接する前頭葉と頭頂葉の部分を視床の内側核と外側核と結びつけるもの,後視床脚hinterer Thalamusstielは後頭葉と視床枕とのあいだ,下視床脚Pedunculus thalami basialis, unterer Thalamusstielは側頭葉と視床の下部とのあいだを連ねる.
2. 視放線Radiatio optica,グラチオレ視放線Gratioletsche Sehstrahlungは鳥距溝の周囲の大脳皮質(視覚中枢Sehzentrum)と次の諸部,すなわち外側膝状体((視)膝状体皮質路Tractus geniculocorticalis(opticus)),視床枕(視床枕皮質路Tractus pulvinocorticalis)および上丘とのあいだの結合である.
3. (聴)膝状体皮質路Tractus geniculocorticalis (acusticus),聴放線Hörstrahlungは上側頭回の皮質を内側膝状体および下丘と結合させる.
4. 赤核への放線は弁蓋と前頭葉との皮質から来る.
5. 線条体放線Radiatio corporis striati.線条体の放線には次のものがある:
a)皮質線条部Pars corticostrialis,これは前頭葉と頭頂葉の皮質から来る線維.
b)被殻と尾状核とのあいだの結合.
c)線条視床部Pars striothalamicaおよび線条視床下部Pars striohypothalamica,これらはレンズ核と視床とのあいだの結合である.レンズ核係蹄Ansa lenticularis, Linsenkernschlingeはレンズ核の3節のすべてから出る線維よりなり,顧この線維群はレンズ核の底で密な1層をなして視床に達し,あるいは視床からここに来ている.
6. 脳弓(弓隆)Fornix, Gewölbeは皮質乳頭路Tractus corticomamillarisというべきで,海馬傍回鈎の皮質から乳頭体に達している.脳弓の初まりの部分がふくむ線維の一小部分は嗅傍野に終り,これは長い脳弓Fornix longusと呼ばれる.
この長い脳弓は連合神経路(366頁参照)に属するわけであり,他方皮質乳頭路は投射神経路に属するのである.
脳弓(弓隆)Fornix, Gewölbe(図410, 414, 416, 423, 428, 431~437, 440)
脳弓は対をなしていて,背方に凸の弓を画いて走り,乳頭体から海馬傍回鈎にまで達する.この2つの場所は脳弓の両蹠点とみなしうる(図437, 440).
脳弓はかくれている部分verborgener Teilと露出している部分freier Teilとよりなる.後者は脳弓柱Columna fornicisとして始まる.かくれている部分,すなわち脳弓柱没部Pars tecta columnae fornicis(図410)は第三脳室の底と側壁のなかにあって,そのがわの乳頭体にまで達している.露出している部分は前交連のすぐうしろで始まり,これは脳弓柱出部Pars libera columnae fornicisとして第三脳室の側壁から上行して,室間孔Foramen interventriculareを前から境し,前下方に開いた弓をなして大脳半球内側面の凹んだ内方縁の全長を円蓋状に走り,側頭葉の前端にまで達する.その経過の前部と後部とでは左右の脳弓がたがいに離れている(図416, 428)が,中央部では脳梁の下面の下でたがいに密接しており,ここでは脳弓体Corpus fornicisをなしている.さらに後方では脳弓体の左右両半がふたたび離れて,それからは脳弓脚Crura fornicisと呼ばれる.脳弓脚は視床枕のうしろで曲り側脳室の下角のなかに達し,一部は海馬足に移行し,一部は海馬采Fimbria hippocampiとなる(図423).この海馬采は海馬足と結合していて,これに伴って下角のなかをすすみ海馬傍回鈎にまで達する(図435).
脳弓体は第三脳室脈絡組織の上にある.その外側縁,すなわち脳弓ヒモTaenia fornicisは側脳室脈絡叢と結合し,采ヒモTaenia fimbriaeに続いている.
側方は左右の脳弓脚によって境されて,そのあいだに張り,主として横走する線維よりなる薄い髄板があって,これが脳梁の下面を被っている.この髄板はしばしば脳梁と完全に癒合しないで,ヴェルガ腔Vergasche Höhleという1つの小さい裂隙Spaltraumによってそれから隔てられている.
両側の脳弓柱は卵円形の横断面をもち,脳弓体は三角形であり,脳弓脚は扁平である(図428, 431, 432).
脳弓柱出部の長さは海馬采の前端まで測ると約9cmである.
脳弓の根としてヴイック・ダジール束Vicq d’Azyrsches Bündel,すなわち乳頭視床束Fasciculus mamillothalamicus(図410, 440)が視床前結節に達している.
長い投射神経路は大脳皮質から起こって中断することなく,内包および大脳脚を通って橋・延髄・脊髄にあるその終末部に達する.
1. 皮質脊髄路(錐体路)Tractus corticospinalis (Pyramidenbahn)は中心前回と中心傍小葉の皮質ならびにこれに続く上前頭回の部分で始まり,内包の膝と後脚との領域を通り,大脳脚を横の方向に5等分したばあい,その第2から第4までを成して(図468),中脳・後脳・延髄および脊髄の運動性の諸核に終る.
2. 皮質橋核路Tractus corticopontini, Brückenbahnenは,a)前頭部(前頭橋核路)Pars frontalis (frontale Brückenbahn) (アーノルド束Arnoldsches Bündel)は上および中前頭回の皮質で始まり,内包の膝および前脚の領域を通り,大脳脚ではその内側1/5を占めて,橋核の腹方部に終る.
b)後頭側頭部(後頭側頭橋核路)Pars occipitotemporalis(occipitotemporale Brückenbahn) (チュルク束Türcksches Bündel)はFlechsigによれば上側頭回の皮質から起り,内包の後脚を通り,大脳脚の外側1/5を占めて,橋核の背方部に終る.
脳神経というのは左右対称的に順序をなして脳の内部から起り,あるいは脳の外にある特別な神経節から始まって,一定の場所で脳の表面に達する線維索であって,頭部から腹部内臓にまで及ぶひろい末梢領域にいたるものである.
I. 嗅糸Fila olfactoriaは多数あって,嗅球の下面で発している.
II. 終神経N. terminalisは嗅球の後方で出ている.
終神経がおそらく受容性の神経であろうということは,この神経が双極神経細胞を有った神経節を伴なうことから知られる.これは末梢では鼻腔の内部に分布する.C. Brookover, Journ. Comp. Neurol.1914.
視索Fasciculus opticus, Augenstielは脳神経ではなく,末梢に位置を変えた脳の一部である網膜と,脳とのあいだの連合神経路である.
III. 動眼神経N. oculomotoriusは中脳の動眼神経溝において9~12本の神経束に分れて,大脳脚と被蓋とのあいだで脳をでてゆく(図410).
IV. 滑車神経N. trochlearisは2本あるいはそれ以上の細い神経束をなしていて,それらが間もなく1つにまとまって,脳の背方面から出る唯一の脳神経として外に出てくる.その出る場所は前髄帆の側縁であって,前髄帆小帯の外側,四丘板のすぐうしろである(図428).
滑車神経はまず側方にすすみ,次いで結合腕と大脳脚とを廻って腹方に走り,脳底にあらわれる.
V. 三叉神経N. trigeminusは大部Portio majorとよばれる約50本の知覚性の根束と小部Portio minorという1本の運動性の根とをもって,橋と橋腕とのあいだの境,すなわち三叉神経-顔面神経線で脳の表面に現われ,しかもこの縦の線の上1/3と中1/3との境で表面に出る.
VI. 外転神経N. abducensは橋を錐体から分けている横の溝において顔面神経より内側で脳の表面に現われる.
VII. 顔面神経N. facialisは橋の下縁で,橋と橋腕との境界すなわち三叉神経-顔面神経線の下端で,橋腕とオリーブとのあいだの溝において内耳神経の内側で後脳を出てゆく.
VIII. 内耳神経N. statoacusticusは橋の背方で,顔面神経の外側においてその大部分の線維が索状体Corpus restiformeと延髄の側索のあいだの溝の側方で索状体から出ている.
IX. 舌咽神経N. glossopharyngicusは延髄の後外側溝の上部で脳から出る.
5~6本の根束をなして出て,それがまもなく2本の小幹にまとまる.最も上方にある根は顔面神経の根と内耳神経の根とのあいだ,且つそのうしろで表面に現われる.迷走神経と舌咽神経の根束は直接に接し合っているので,両者はそれらの幹の方からだけ分けることができる.
X. 迷走神経N. vagusは10~15本の束をなして延髄の後外側溝から外に出る(図409, 417).
XI. 副神経N. accessoriusは脳の部分と脊髄の部分,すなわち延髄根Radix myelencephalicaと脊髄根Radix spinalisとよりなる(図409, 417)
脊髄根は6~7本の根束からなっていて,この根束はたがいに広い隔たりをもって頚髄から出るのであって,最後の根糸は第6頚神経の高さで表面に達する.
これらの根糸は走りながら次第に合して1本の幹となる.根束はその初まりのところでは歯状靱帯の背方から出る.第1頚神経に至るまでは根束の出る場所は絶えず脊髄神経の後根に近づいてゆき,第1頚神経では後根とほとんどいっしょになるほどであらて,従って1本の束が2つに分れて副神経と第1頚神経になることもある.副神経の延髄根は4~5本の束をなして,迷走神経根の下方に続いて,後外側溝で延髄からでている.
XII. 舌下神経N. hypoglossusは10~15本の根糸をもって延髄を去る.その根糸は1本の縦の列をなして延髄の前外側溝から外にでて合して2本の束となる(図409, 417).
脳の被膜は脊髄の項で述べたのと同じものである.
脳硬膜は脳の外方をつつむ被膜であると同時に頭蓋骨の内面を被う骨膜(頭蓋内膜Endocranium)でもある.
子供では頭蓋の内面に比較的かたく付着し,成人では多くの場所で頭蓋骨とゆるい結合をしているに過ぎない.しかし頭蓋縫合のところおよび特に蝶形骨体と後頭骨体とにおいては,成人でもその結合が密である.脳硬膜の外面は骨と結合する線維束のために粗であり,内面は平滑であって,かつ光沢がある.内面は完全に内皮に被われ,外面は骨と結合する線維束の間だけが内皮に被われている.
硬膜の平滑な内面は次に述べるものによって他の脳膜と結合している:すなわち,1. 硬膜内の静脈洞に達する多くの脳静脈Hirnvenenにより;2. 脳膜顆粒Granula meningica, Arachnoidatzotten, (クモ膜絨毛の意),すなわちパッキオニ顆粒Pacchionische Granutationenによって結合する.
硬膜が2枚に分れていることは多くの場所に見られる:すなわち,1. 静脈洞のところ;2. 側頭骨錐体の前面にある半月神経節腔Cavum ganglii semilunarisのところ;3. 側頭骨錐体の後面で,膜迷路の一部である内リンパ嚢のところ;4. トルコ鞍の内部で下垂体のところである.
硬膜の諸突起:
a)外方への突起:脳神経の硬膜鞘Durascheiden. 脊髄硬膜が脊髄神経に鞘をあたえているのと同様に,脳硬膜は脳神経に丈夫な鞘をあたえている.
この鞘の初まりの部分はロート状であって,脳膜漏斗Infundibula meningicaと呼ぶことができる.この漏斗は三叉神経では特に大きく,半月神経節とこれに隣接する根線維の端とがともに硬膜とクモ膜の作る1つの平たい嚢に包まれて,三叉神経圧痕の上にのっている.また顔面神経と内耳神経の根における脳膜漏斗も大きくて,この両神経根は内耳道のなかで硬膜とクモ膜の作る管状の突起に包まれている.脳膜漏斗はもちろん硬膜下腔と軟膜腔の膨出部をも含み,この両者は三叉神経の根束と半月神経節のところ,および内耳道の内部で特に広がっていて,このことは実地医学に大きな意義を有っている.(Ferner, H., Z. Anat. Entw.,114. Bd.,1948).
b)内方への突起:内方への突起は矢状方向にのびている2つと横の方向にひろがっている2つとがあって,これらによって頭蓋腔は脳の主要部分に一致したいくつかの小室に不完全に分けられている.矢状方向の突起は脳鎌Hirnsicheln,すなわち大脳鎌Falx cerebriと小脳鎌Falx cerebelliと呼ばれ,横の方向の突起は小脳天幕Tentorium cerebelliと鞍隔膜Diaphragma sellaeとである.(鎌の音は「レン」,訓は「カマ」であるが大脳鎌,小脳鎌などでは訓で読む方が判りやすい.(小川鼎三))小脳天幕はこれに被われた下方の頭蓋腔を上方の頭蓋腔から決して完全に閉ざしてはいない.この開いている口の前方の境界をなして鞍背があり,外側かつ後方の境界は小脳天幕の前縁にある深い切れこみ,すなわち天幕切痕Incisura tentoriiによって形成されている.
小脳天幕は背方に円みをおびて突出して,かたく張っており,終脳の後頭葉の底面と小脳の背方面とのあいだに横の隔壁をなしている.その後縁は凸を画いていて,1. 後頭骨と頭頂骨との横溝に固着し,ここでは横静脈洞をその中に包んでいる.2. 側頭骨錐体の上縁(錐体稜)に固着し,ここでは上錐体静脈洞を包んでいる.
小脳天幕が大脳鎌と合するところに直静脈洞Sinus rectusがあり,これは後方でいわゆる静脈洞交会Confluens sinuumに開口しており,前方では大大脳静脈と合している.
大脳鎌は正中にあって,鶏冠から内後頭隆起にまで延び,半球間裂に一致して両側の大脳半球のあいだに深さ約3cm入りこんでおり,脳梁からわずか2mmはなれているにすぎない.これは鎌形であり,矢状方向にのびた2面をもって,そのおのおのが大脳半球の内側縁に向かっている.また大脳鎌は外方(上方)の頭蓋冠の内面に固着している凸縁と内方(下方)の凹を画く遊離縁とをもっている.
その凸縁は前頭稜に付着し,また頭蓋冠の矢状溝の側縁に付着して,後方は内後頭隆起まで達している.硬膜の内・外両板のあいだに囲まれた腔所すなわち上矢状静脈洞Sinus sagittalis superiorは三角形の横断面を有っている.その凹をなす縁は前者よりいっそう強い弯曲を示し,かつはるかに短い.その中には弱い下矢状静脈洞Sinus sagittalis inferiorがある.大脳鎌が直静脈洞に沿って,小脳天幕に移行する縁は大脳鎌の天幕縁Zeltrandをなし,その反対の方で鶏冠に固着している縁は大脳鎌の鶏冠縁Kammrandをなしている.
小脳鎌は頭蓋円蓋の後下部にあって,大脳鎌に続く,やはり矢状方向の小さい突出部である.これは底Basisを有ち,この底が小脳鎌を小脳天幕と結合させている.また小脳鍬には外方(後方)の凸縁と凹を画く内方(前方)の縁とがある.その凸縁は後頭静脈洞Sinus occipitalisを包んで骨に固着している.
この硬膜葉は海綿静脈洞の自由壁を作っていて,トルコ鞍の上を横に越えて他側のものと合して橋をなし,漏斗が貫くために[鞍]隔膜孔Foramen diaphragmatis[sellae]という小さい孔が中央にあいているだけである.トルコ鞍を被っている硬膜の上・下両葉のあいだに包まれて下垂体が存在する.
微細構造. 脳硬膜の微細構造は脊髄硬膜のそれと大体において一致している.脳硬膜の主要成分は密に組み合った結合組織束である.硬膜の外方部は内方部すなわち脳に向かったがわのものとは違った線維の走り方を示している.内層の線維は主として前内側から後外側の方向に走り,外層のものは前外側から後内側の方向に走っている.そのほかに刷毛状に横の方向に広がる線維群もあって,この横走線維群は脳鎌の起始に当たっている.脳膜顆粒の増殖によって硬膜はところどころはなはだ薄くなっていることがあって,そのため篩状に孔があいているように見える.脳鎌では結合組織の線維が底の前端から凸縁に向かって半径状radienartigに放散しているし,小脳天幕では線維が前者と同じ場所から外側に向かって走っている.
これちの線維系の機能的意義についてはBluntschli, Arch. Entwmech.,106. Bd.,1925を参照されたい.
脳硬膜はいろいろなところから動脈を受ける.その動脈としては特に硬膜動脈Aa. meningicae,両側の後頭動脈と椎骨動脈とが出す硬膜枝Rr. meningiciをあげなくてはならない.これらの動脈は外葉のなかを走り,ごくわずかな結合組織だけで骨から隔てられていて,骨学ですでに知ったように,その一部が骨にはっきりした溝Furchenを生ぜしめている.これらの動脈はふつう2本の静脈を伴なっている.
リンパ管としては硬膜のなかに1つの液路系Saftbahnsystemがある.硬膜の組織内に穿刺することによって,この液路系に注入することができる.そのさい注入されたものが硬膜の脳に向かった面に(すなわち硬膜下腔に)たやすく流出する(Michel).
硬膜の神経は三叉神経,迷走神経,舌下神経および交感神経の細い枝からなっている.それには血管運動性の神経vasomotorische Nervenと硬膜に固有の神経eigene Nerven とが存在するのである.
[図445]小脳天幕Tentorium cerebelliと大脳鎌Falx cerebri(3/4) 頭蓋冠の右半はほとんど完全に取り去ってある.
脳軟膜は(外方の)脳クモ膜Arachnoides encephaliと(内方の)脳柔膜Pia mater encephaliという2つの膜よりなる.
これは血管をもたない繊細な膜であって,その平滑な外方の面は内皮に被われて硬膜た向い,狭い硬膜下腔Cavum subdurale, Subduralraumを内方から境している.クモ膜の内面は内皮に被われた数多くの小梁と小膜が存在することによって粗であり,且つけば立っている.この小梁と小膜とがクモ膜を柔膜と結合していて,クモ膜下組織と呼ばれる.このクモ膜下組織によって,クモ膜と柔膜のあいだの腔所がたがいにひとつづきをなす大小いろいろな腔所の集りと化していて,その全体が軟膜腔Cavum leptomeningicumと呼ばれ,(クモ膜下の)髄液をもって満たされている.
終脳の凸面と平面的な表面とにある諸回転の上では,クモ膜下小梁が短くて,且つ固くできているので,クモ膜と柔膜とが合して1枚の膜とみなしうる状態である(これが脳軟膜Leptomeninxである).この1枚の膜は2枚の丈夫な限界板よりなり,その内部には小梁と隙間が存在する.ところで柔膜は脳溝のなかに入りこむが,クモ膜は脳溝の上を越えてのびている.そこにはかなり長い小梁や小膜およびかなり大きい裂隙をもつ場所がある.脳底のところと脊髄への移行部ではクモ膜が定まった個所で柔膜から遠く離れてもちあがり,そのため大きなクモ膜下の腔所,すなわち軟膜槽Cisternae leptomeningicaeができている.
[図446]下垂体を通る正中断面 (成人男子)
[図447]松果体の横断面 (成人男子)
この軟膜槽のなかで最も大きなものは小脳延髄槽Cisterna cerebello-medullarisであり,これは脊髄の後面のクモ膜下腔の続きをしている.すなわちクモ膜は下虫と第四脳室脈絡組織とのあいだの場所に入りこまないで,小脳の下面から延髄の後面に橋渡しの状態になっている.脊髄の前面のクモ膜下腔も脳の方に続いている.延髄の全体が1つの広いクモ膜下腔に包まれているのである.橋の腹方面になるとこのクモ膜下腔が中央にある1つの腔所と側方にある2つの腔所とに続いて,これらは中橋槽CisternApontis media,外側橋槽Cisternae Pontis lateralesとよばれ,そのうちで中央のものは脳底動脈を囲んでいる.クモ膜は橋の前縁からとび越えて視神経交叉の前縁に達するのである.
この大きな腔所の中にさらにいくつかの部分が区別できる.漏斗から始まって両側の動眼神経が出る場所まで達する不完全な隔壁によって前方の交叉槽Cisterna chiasmatisと後方の脚間槽Cisterna intercruralisとが分けられている.視神経交叉の前上方には終板槽Cisterna laminae terminalisがある.これに続いて背方には脳梁槽Cisterna corporis callosiが脳梁の凸面に沿って存在する.外側大脳谷と外側大脳裂のところには外側大脳谷槽Cisterna valleculae lateralis cerebriがある.また迂回槽Cisterna ambiensが大脳脚を回って上方に脳幹の背側面へと延びて,これは四丘板をも囲み,脳梁の上にまで続く.大大脳静脈の周りに大大脳静脈槽Cisterna venae cerebralis magnaeがある.
[図448]脳皮質とこれに入る血管との関係を示す断面図(半模型的)
KeyとRetziusの図にもとづいて画いてある.v, v', v'毛細血管,vまだクモ膜下腔の内部にあるもの;5 クモ膜小梁と小膜;P 柔膜の内膜Intima pia,これは脳内に進入する血管の外膜鞘にロート状をなして続いている;a. p. 外膜性の血管周囲腔;Pe ヒス血管周囲腔Hisscher Perivasculdirer Raum と ep, ep いわゆるepicerebraler Raum(脳表面腔)とはおそらく人工産物であろう.
[図449]脳膜顆粒の1つとその被膜とを模型的に表わしたもの
co 大脳半球の灰白皮質;p 柔膜内膜Intima pia;sa クモ膜小梁をもったクモ膜下腔,これが脳膜顆粒加にそのまま続いている;a クモ膜;sd硬膜下腔;sd'脳膜顆粒の硬膜下腔,これは脳膜顆粒の細い柄の周りでsdとつづいている;d硬膜の内板,これは静脈腔ηにより外板のdiから隔てられている;ds脳膜顆粒の硬膜鞘
脳の比較的太い血管はクモ膜下腔のなかを走る.それより細い枝になると柔膜の外面に達してこれに固く着いて,これからは柔膜血管Piagefäßeと呼ばれる(図448).
クモ膜は(顕微鏡的には)多少とも密集した結合組織束の網目構造からなり,これらの束が両面を内皮で被われた薄い膜をなして広がっている.
脳膜顆粒Granula meningica[以前はパツキオニクモ膜顆粒Granulationes arachnoidales(Pacchioni)と呼ばれた].
これはクモ膜のもつ特別な構造物であって,膨れた棍棒状をなしていて血管をもたない特有なものである.すなわち蜘継膜絨毛arachnoidale Zotten,パッキオニ顆粒Pacchionische Granulationenなどと呼ばれた.その完成したものは硬膜組織のなかにいろいろな深さに入りこみ,そのために硬膜組織が非常に薄くなっていることもあるので,これらの絨毛は一見骨壁に直接に接し,硬膜の隙間のなかに存在するごとく見える.しかし骨とのあいだには必ず硬膜の薄い層が介在している.顆粒周囲のリンパ腔Perigranulärer Lormphraum(図449)は硬膜下リンパ腔が外方に突き出た部分であって,両者はたがいに開放性につづいている.この絨毛の内部はクモ膜下小梁のつくる網目構造より成り,血管を欠き,絨毛の外面は内皮で被われている.絨毛の柄は細いことも,太いこともある.これらの絨毛は主として上矢状静脈洞の中およびその近くに見られ,また横静脈洞や直静脈洞のところにも存在する.
脳膜顆粒は数も大きさもすこぶるまちまちであり,子供では欠けている.KeyおよびRetziusによれば脳膜顆粒をへて漿液性の液体がクモ膜下腔から硬膜の静脈洞に移行することがいっそう容易におこる.
脳膜顆粒の意義としては単純な機械的な役目も考えられる.つまりクモ膜と柔膜および脳表面を硬膜および頭蓋冠に固着させるためのボタンに類するものknopfartige Befest igungsmittelとみなす人がある.--Bluntschli(Morph. Jahrb., 41. Bd.,1910)は霊長類のなかでも高等なものほどクモ膜絨毛がいっそう多く存在し,かつ高等な分化をしていることを確かめた.
硬膜が突起を出しているように,クモ膜ももろもろの神経根にクモ膜鞘Arachnoidalscheideという鞘状の突起を送りだしている.この突起はやはり三叉神経の半月神経節とその根線維の領域,ならびに内耳道の内部では特に大きくて,これらの場所では軟膜腔がかなり大きい陥凹を作っている(373頁参照).これによって脳と脊髄をつつむ硬膜下腔およびクモ膜下腔が神経のリンパ路とつづき,またこれを介して神経以外のリンパ路ともつづいていることが理解できる.かくして脳のクモ膜下腔から,たとえば鼻粘膜のリンパ管,視神経のまわりの腔所,耳の迷路の外リンパ腔を人工的に満たすことができるのである.Iwanow, G., Arch. russ. Anat.1929.
脳と脊髄のクモ膜下腔は次の3カ所で脳内部の脳室系と続いている:
1. 菱脳正中口Apertura mediana rhombencephaliにより,また
2. および3. 対をなす菱脳外側口Apertura ateralis rhombencephaliによる,柔膜の項参照.
柔膜は脳の表面に密接して,脳のあらゆる溝と裂け目の奥まで入りこみ,また脈絡組織と脈絡叢の結合組織層をなすが,そのさい脳室腔とは脳の上皮性の壁,すなわち蓋板Lamina tectoriaによって隔てられている.
柔膜の外面には小さい血管がかたく付着している.軟膜槽の領域では,脊髄におけると同じような関係がみられる.血管はそれより先の経過では,すでに305頁に記載した関係を示す,すなわち柔膜漏斗Piatrichterおよび外膜鞘がある.これらの鞘と血管壁とのあいだにある管状の腔所はクモ膜下腔と直接に続いている.
特別な構造としては脈絡組織と脈絡叢とがある.
a)第三脳室脈絡組織Tela chorioidea ventriculi tertii.(図416, 432, 433, 450)
これは二等辺三角形の形をしており,その尖端は前方に向かって脳弓柱に達し,底は後方に向かっていて脳梁膨大のところにある.この脈絡組織は背腹の両部分よりなって,この両部分はクモ膜下組織によってたがいに結合している.側方では背方部が折れ曲がって腹方部に続く.その折れ曲る縁は終脳の側脳室のなかに突出する側脳室脈絡叢Plexus chorioideus partis lateralis ventriculi telencephaliがあるのではっきりしている.この脈絡叢は側脳室のなかで室間孔から下角の前端にまで伸びている.側副三角のところでは,この脈絡叢が脈絡糸球Glomus chorioideumというかなり大きい塊りをなしている.左右半球の側脳室脈絡叢は前方では,腹方に曲がって左右の室間孔のあいだにある狭い場所のなかに入り,ここで両側のものがたがいに移行する.またそこで後方に向かって左右の1対が相接して並ぶところの幅の狭い第三脳室脈絡叢Plexus chorioidei ventriculi tertiiを送りだしている.その関係は図432, 433, 450で明かに知られる.
側脳室脈絡叢の外側稜は視床脈絡ヒモに,内側稜は脳弓ヒモすなわち脳弓の外側縁に付着している(図450).この脈絡叢の上皮はその付着線に一致するところで,いま述べた諸構造を被う部分に続くのである.左右の第三脳室脈絡叢は側方では視床髄条に付着している.さらに後方ではその付着部が手網となり,ついで松果体の上面に移行する.
第三脳室脈絡組織の両柔膜層のあいだに含まれるクモ膜下組織のなかを2本の太い静脈が走っている.これらが内大脳静脈Venae cerebrales internaeであって,この2本の静脈は第三脳室脈絡組織の後端でたがいに合して大大脳静脈Vena cerebralis magnaとなる.各側の内大脳静脈は第三脳室脈絡組織の前端で脈絡叢静脈Vena chorioideaと視床線条体静脈Vena thalamostriataとを受け入れる.
b)第四脳室脈絡組織Tela chorioidea ventriculi quarti(図410, 427)
このものは,側方は菱脳ヒモに,前方は後髄帆に達する第四脳室の上皮性の被いepitheliale Deckeとその上に接着している柔膜板Pialamelleとからなる.この脈絡組織の底は上方にあって,後髄帆に沿って片葉柄まで達している.つまりその底は左右の片葉柄の間にあって幅が広く中央の付着点として下虫の虫部小節をもっている.またこの脈絡組織の尖端は第四脳室の下端にある.
ここでも各側に1つずつの外側の脈絡叢seitlicher Plexusと一見対をなさないようにみえる中央の脈絡叢mittlerer Plexusとがある.前者は虫部小節から側方に延びて第四脳室外側陥凹に達している.また後者はたがいに相並んでいる2本の条からなっていて虫部小節から後方にすすみ,菱脳正中口から外に出て,なおある長さだけ下虫に接して上つている.これらをみな合せて第四脳室脈絡叢Plexus chorioideus ventriculi quarti と呼ぶのである.
第四脳室脈絡組織には二次的に破れてできた2種の孔がある.中央にある1つは菱脳正中口Apertura mediana rhombencephali,側方にある2つは第四脳室外側陥凹がもっている菱脳外側口Aperturae laterales rhombencephaliである.
菱脳正中口は脳室蓋の後部で,閂のすぐ前にある.両側の菱脳外側口は第四脳室外側陥凹の両端を占めている.
これらの孔の機能Funktionとしては脳室のなかに含まれる脳の髄液Liquor encephalicusの圧の調整がいっそう容易にできるためのものである.つまり脳内部の髄液がこれらの孔を通ってクモ膜下のリンパとまじって脳脊髄液となるのである.ところで脈絡叢Plexus chorioideiの作用は脳の髄液を分泌することである.脳室壁と中心管との上衣細胞もおそらくは髄液の形成にあずかっているのであろう.
しかし他の人の意見によれば脈絡叢は吸収をするという.
中枢神経系は血液のなかに含まれる多くの物質に対して保護されている.その関所(血液と髄液とのあいだを仕切るもの)としておそらく血管の内皮が役だっているのであろう.もっともその仕切る力は年令により,また身体のその他の状態によって変化する.
[図450]第三脳室脈絡組織Tela chorioidea ventriculi tertiiとその周囲を通る横断面(W. His1895)
II側脳室;III第三脳室;C. c. 脳梁;F 脳弓(弓隆):Th 視床;St. m. 髄条;St. t. 分界条;V. t. 視床線条体静脈;L 付着板.1 髄ヒモ;2 視床脈絡ヒモ;3 脳弓ヒモ.この図はこれらの3紐が脈絡叢の上皮層に移行することを示す.
脈絡叢の絨毛は線維の乏しい結合組織とそれを被っている上皮およびその中に包まれた血管よりなっている.上皮は丈の低い円柱状のもので多くは単層であるが,2層あるいはそれ以上重なった上皮もかなり広い範囲にみられる.入ってくる動脈と出てゆく静脈とは絨毛の内部で豊富な毛細血管網をこしらえている.脈絡叢の絨毛は1~2mmの長さをもち,小ぎれいな形で若干数の第二次の高まり(長さ0.4mm)に分れ,これがさらに小さい第三次の小葉(長さ0.07mm)をもっている.
ここでまた上にたびたび述べた脳の紐Taenien des Gehirnes,すなわち脈絡組織ヒモTaeniae telae(330, 346, 363, 371頁)をまとめて概括的に述べることにする.
1. 菱脳ヒモTaenia rhombencephali.これは閂(326頁)において始まり,後索の上端の前を斜めに索状体に移ってゆき(図421, 422),第四脳室外側陥凹の縁をなして,ついで小脳に達し,ここでは片葉脚と後髄帆とに沿って虫部小節に達している(330頁).それゆえ菱脳ヒモは他側のそれといっしょにして考えると,輪状をなしている.
[図451]側脳室脈絡叢,その下角にある部分 海馬足と側脳室の下角とを通る前額断.×2
v. l. 側脳室の下角;sub. 海馬傍回;c. A. 海馬足,その脳室面ではdからcまでは白い髄質板で被われ,この髄質板はにおいて海馬采fiに移行している.aとbとのあいだでは脈絡叢p. ch. が脈絡壁Parles chorioideus, Zottenplatte (R. Wetzel)を作っている.外に露われている面を被う柔膜の続きは点線で示してある.n. c. 尾状核尾;f歯状回;g 退行髄板Lamina medullaris involuta,これは白網様質に続いている.
[図452]第三脳室脈絡組織・第三脳室脈絡叢と側脳室脈絡叢 間脳と側脳室とを通る前額断.半模型図. ×2
cr. 大脳脚;v. III第三脳室;v. l. 側脳室;r 脳弓(f)の上面と脳梁(c, a. )の下面とのあいだにある側脳室の陥凹;n. c. 尾状核;st. t. 分界条.脳弓の外側稜cからは,側脳室脈絡叢(ch. l. )をもつ柔膜葉が橋渡ししてaに向い付着板の縁に達している.このところ,ならびに脳弓の下面および視床と第三脳室との上面にある柔膜葉は点線であらわし,脈絡叢の上皮は鋸の歯のように多くのでこぼこをもつ線によって模型的に示してある.上下の両柔膜葉のあいだにはゆるいクモ膜下組織(sa. )と2本の内大脳静脈(v. v)の横断面とがある;ch. m. 第三脳室脈絡叢.
2. 髄ヒモTaenia medullaris.第三脳室の髄ヒモは視床脈絡ヒモとひと続きの条をなし,この条に4つの部分を区別することができる:すなわち髄ヒモTaenia medullaris,視床脈絡ヒモTaenia chorioidea thalami,采ヒモTaenia fimbriaeおよび脳弓ヒモTaenia fornicisである.
髄ヒモTaenia medullarisは松果体(図418)において始まり,各側では髄条の自由縁に沿って前方に進む.
そしてこれは第三脳室脈絡叢の下面を被っている幅め狭い上皮板に続くのである.室間孔に達すると髄ヒモは後方に曲がって視床脈絡ヒモとなる.この視床脈絡ヒモは海馬足の前端で采ヒモに続き,采ヒモは脳弓ヒモに続くのである.
柔膜の血管は大部分が脳に分布するものであり,柔膜じしんのためのものではない.その動脈の源は内頚動脈と椎骨動脈とである(第1巻参照).柔膜のリンパ管についてはすでに上に述べた(305頁).
柔膜と脈絡叢の神経はStöhrによれば交感神経と副交感神経とから来る.交感神経は頚動脈神経叢と椎骨動脈神経叢とから,副交感神経は動眼神経・外転神経・舌咽神経・迷走神経・副神経・舌下神経からくる.そのうえなお直接の枝が橋と大脳脚とから来ている.神経の分布は脳底では脳の凸面におけるよりも豊富である.3種類の終末が観察されている:すなわち,1. いろいろな形の終末膨大部(305頁参照),2. 触覚小体(マイスネル)Meissnersche Körperchenとこれによく似た終末装置,3. 終末分枝叢とである.
Imamura, Sh., H. Obersteiners Arbeiten,8. Bd.,1902.--Stöhr, Ph., Über die Innervation der Pia mater und des Plexus chorioideus des Menschen. Z. Zellforsch., 30. Bd.,1939.
最終更新日 12/04/13
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