Rauber Kopsch Band1. 46

II. 肺循環の血管Vasa pulmonalia, Blutgefäße des Lungenkreislaufes

 心臓と肺臓との距離が短いので肺循環の血管の幹はあまり長くない.肺動脈はただちに枝分れして,その枝はさらにまたそれぞれの小区分に向かって分散していく.同じようにして静脈根もその幹に集まってくる,そのさい動脈の壁はそれにかかる圧力が小さいために体循環の動脈の壁よりも弱くできている.それに対して肺循環の静脈は比較的厚い壁をもっている.その他のちがいとしては動脈が静脈性の」血液を通し,動脈性の血液が静脈を通って戻ってくることである.

A. 肺動脈Arteria pulmonalis (図600, 618, 619, 621, 622)

 肺動脈は直径が約3cmの太くて短い血管であり,右心室の動脈円錐から出ている.

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肺動脈は心臓のすべての血管のなかで最も前方にあり,大動脈の起始部をめぐって,左上方に向い4~5cm走って第4胸椎の高さで大動脈弓の凹側に達し,そこで右と左の枝,すなわち右枝Ramus dexterと左枝Ramus sinisterに分れる(図622).半月弁のついている起始部には肺動脈洞による膨隆があり,これを肺動脈球Bulbus arteriae pulmonalisという(図618, 621).

 局所解剖:肺動脈はその起始で左右の冠状動脈によって境され,また左右の心耳に密接している.その起始部は大動脈の起始部を被っている.さらに上方では大動脈の左側にいたり,左心房の前方にあって心膜横洞によってこれからへだてられている.そこから大動脈弓の横走部の下に達する.肺動脈と大動脈は4~5cmの長さにわたって動脈の漿膜鞘Vagina serosa arteriarumによっていっしょに包まれているが,この鞘はまた肺動脈の左右の枝の初まりのところをも被っている.

 分枝点からやや左方で肺動脈は掛め左後上方に向う短い円柱形の重要な1本の索すなわち動脈管索Chorda ductus arteriosiによって大動脈弓の下壁とつながっている.組織学的にはこれは結合組織性で平滑筋を含んでいる.この索は胎生期において強く発達して,2つの血管を結びつけていた中腔の管,すなわち動脈管Ductus arteriosusの名ごりである.これは大動脈弓の末梢への境を示している(図619).

 右枝Ramus dexterは左枝より長くまたいくぶん太く,上行大動脈と上大静脈の後をほとんど真横に右方にすすんで肺門にいたり,そこで3つ肺葉に分布する3本の枝に分れるか,あるいはまず2本の枝に分れ,その上枝が上葉に向い,下枝がさらに2本の枝に分れて右肺の中葉と下葉にはいってゆく.

 左枝Ramus sinisterは右枝よりやや短くて横走し,胸大動脈と左気管支の前方をへて左の肺門に達し,ここで2本の枝に分れて肺葉に入る.

 局所解剖:肺動脈の両枝が肺臓に入るさいはたいてい気管支の枝の前方で静脈の上方にある.右肺では気管支が最も上にあり,静脈が最も下にあるが,左では気管支より動脈がやや上にある.動脈管Ductus arteriosusの内腔は出生後まもなく筋層の収縮によってせまくなる.しかし数日間は子供になんらの障害がないまま,この管が多少通過可能のことがある,2週間後にはゾンデを通すことが困難,もしくは不能になるが,それでも星形の内腔が残っていることが顕微鏡的に確かめられる.その後は内腔がだんだんと狭くなり両端の近くでは全く消失してしまう.

 肺動脈の変異で,体の栄養に重大な障害をあたえないものとして肺動脈の幹が早く分岐していたり,動脈管が特別に右心室から起こっていたり,動脈管が一部開いたままになつ.ていたりする.動脈管が全くなくて,大動脈と肺動脈が大きな口をもって直接につながっていることもある.少数の例では大循環の動脈が肺動脈から出ていた.

B. 肺静脈Venae pulmonales (図619, 622)

 肺静脈はふつう4本の短い幹からなり,各側に2本ずつあって,それぞれ左右の肺門から出てすぐに心膜の後壁に入りこむ.2本の右肺静脈Vv. pulmonales dextraeはやや長くて右肺動脈の下で,上大静脈,右心房および上行大動脈の後を左心房に向かって走る.右側にいっそう細い第3の静脈が存在することがまれでない.2本の左肺静脈ははるかに短い経過をとって胸大動脈の前を過ぎて左心房にいたる.

 肺門から出るところで肺静脈はなお前気管支静脈を受け入れている.この前気管支静脈Vv. bronchales ventralesは一部は気管支リンパ節から一部は心膜の後面から出るものであり,気管静脈および後縦隔静脈と吻合している,この静脈は各側に少なくとも2本ずつある.

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[図633] 心臓の血管 胸肋面(5/6)

 肺動脈とその弁を取除いて冠状動脈の出るところを示してある.

[図634] 37才の男の頚動脈糸球 概観

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[図635] 心臓の血管 横隔面(5/6)

肺の内部では気管支枝から出てくる小さい静脈小幹が肺静脈の分枝に入りこみ,またこの2つの静脈のあいだに吻合がある.この関係は気管支枝の分枝の全長にわたってみられる.気のほかにまだ気管支樹のもつ主要な静脈Hamptvenenについては右縦胸静脈の項を参照されたい.

 比較的しばしばみられる肺静脈の変異としては1側の肺静脈が心房に達する前にすでに1本の幹に合していることがある.また幹の数がふえていることもあり,それは1側だけ(多くは右側)のことがあり,両側にそれぞれ3本の肺静脈が存在することもある.右の肺静脈が右上大静脈,右縦胸静脈,冠状静脈洞に開口することがあり,また左の肺静脈が左腕頭静脈,左上大静脈,冠状静脈洞に開口することも見られている.

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最終更新日 12/04/13

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